初田ハートクリニックの法度

 リナの質問に、震える声で短く答えた。

「中村、秀樹」

「ひできくんっていうのね。そう。よろしくね。私は仕事があるからもう行くわね。アリス、お父さんがスペアキーはもらってないって言っていたんだけど、くれる?」

「スペアは作ってないからないよ。その分のお金はもらってないし」

 アリスが断ると、リナはショルダーバッグから財布を出し、一万円札を一枚アリスに押しつける。

「三日後にまた来るから、それまでに作りなさいね」

 リナはコウキにだけ会釈して立ち去った。

 足音が完全に聞こえなくなってから、コウキがその場に座り込んでしまった。

 呼吸が荒れ、ひどく青ざめている。

 アリスは買い物袋を横に置いて膝をつく。

 中身がこぼれ出てしまったが、それどころではない。

 ゆっくりとコウキの背中をさする。

「だいじょうぶ、コウキ。ていうか、秀樹って誰。あんたの名前コウキじゃないの?」

「……あれ、アリスの姉? スペアキー、渡さない方がいいよ。俺の元父親と同族の臭いがする」

 ようやく口を開いたコウキは、震える声でアリスに忠告する。