初田ハートクリニックの法度

「俺にとっての普通は、人にとっての非常識。いつもそうなんだ。察しろ、空気読めっていうやつができなくて。だからみんなに嫌な顔をさせちゃう」

「あたしはなにも嫌なことをされていないけれど。むしろ道案内助かってる」

 アリスとコウキ目の前を、モンシロチョウがひらひらと通り過ぎていく。

「これは殺していい?」

「モンシロチョウ? 駄目だと思う」

「アレは?」

 民家の窓にくっついている蛾。

「自分ちの中にいたら、退治するか追い出すね」

「チョウとどう違うの? 色が違うくらいで、見た目はほとんど同じ虫じゃん。アリスはどこで見分けているの?」

 蛾は退治してもよくて、モンシロチョウを駄目だと思う理由。

 コウキはその線引きがうまくできなくて、とても困っているのだけは痛いくらい伝わってくる。

「アリスにも分かるのに、どうして、みんなの普通が俺にはわからないんだろう。教えてもらわないと、季節も見えない。俺だって、同じ普通(・・)を見たいのに」

 見た目はどこにでもいる少年だけど、コウキは確かに初田の患者なのだとアリスは感じた。