初田ハートクリニックの法度

「そっか、それで、アリス。春ってどれ?」

「ああうん、散策と季節探しがあんたの治療の一環だってことは、なんとなく伝わったわ」

 コウキが普通の感覚とどこかずれていると、短い会話でわかった。

 コウキはどんな人生を送ってきたんだろう。

 聞くのは無粋な気がして、アリスは桜の木を指さして教える。

「桜が咲いている。桜は春の、このいっときしか咲かないから」

「そうか。これが春なんだ」

「それに、冬の間より暖かい日が増えたでしょ」

「そんなこと、考えたことなかった」

 初対面の他人ながらも、コウキのことが心配になった。

 どれだけ余裕がない生き方をしたらこうなるんだろう。コウキはアリスが持ち上げた手ーーいや、手首を見て聞いてくる。

「それ、痛くない? 父親にやられた?」

 普通、そんなこと聞いてこない。

 しかも傷痕を見て、父親にやられたのかと言うのが気になった。

 コウキ自身が父親にDVでもされているのか。