初田ハートクリニックの法度

 引きこもっていたときは必要なかったから持たなかったけれど、クリニックとの連絡手段がなくなると困るからということで、入居する直前にスマホを買い与えられた。

 マップという機能を使えば目的地まで道案内をしてくれるらしい。

 あいにくスマホに触るのは初めてで、どれが道案内機能なのかわからない。

 アリスはジャンパーのポケットにスマホを押し込んで、見知らぬ町を歩いた。

 風に乗って、ふわりと白い小さな花弁が目の前を舞い落ちていった。

 どこから落ちてきたのかと目で追うと、川沿いに植えられている桜の木々がつぼみをつけ、数輪が花開いていた。

 初田のクリニックを訪問した頃にはまだ雪がちらついていたのに、アリスが気づかない間に季節は移ろっていた。

 自然と、足が川の方へ向く。

「ああ、もう春なんだ」

 誰にいうでもなくつぶやくと、アリスの近くを歩いていた少年が歩み寄ってきた。

「お姉さんには春がみえるんだ。どれ?」

「え?」