初田ハートクリニックの法度

 まるで幼児だ。

 アリスも、母に愛されていないのを感づいていた。

 リナが家を出るのは嫌だと言い張ったのに、アリスのことを簡単に手放そうとする皐月の態度を見て、母親から視線をそらした。

「ご家族から話を聞くのはこれで最後です。アリスさん、次回からは一人で来てください」

「……わかった」

「お母さんのお話は聞き終わりましたので、これで退室していただいてけっこうです。アリスさんにはまだお話があるので残ってください」

 皐月が退室してから、初田は緊張の糸が切れたように、ソファに崩れ落ちた。

 足を伸ばして、背もたれにだらりと体を預ける。

 ぬるくなった紅茶をあおってマスクを取る。

 傷なんてない、整った顔が現れた。

「はー、アリスさんのお家はお母さんも大変癖が強い人なんですね」

「先生もじゅうぶん癖が強いから安心しなよ」

 秒速で切り返される毒舌に、初田は腹を抱えて笑う。

「そうでしょう、そうでしょう。わたし、三歳の時点で変と言われていましたし、研修医時代のあだ名はマッドハッターだったんですよ」

「精神科医でも自虐ってするものなの」

「自虐じゃありません。事実です。わたしは特徴のないその他大勢ではないでしょ」

「誰もが振り返る変人だね。ウサギ頭だし」

 ひとしきり笑った後、初田はアリスに言う。