初田ハートクリニックの法度

 おそらく皐月は、誰かに頼らずには生きられないタイプの人間だ。

 そして、自己愛性パーソナリティ障害のリナとはある意味で相性がよかった。

 愛され必要とされることを喜びとする気質のリナ、異常なほどリナに依存する皐月。

「リナちゃんが家を出るなんて、そんなことないはずよ。リナちゃんなら結婚後も家にいてくれるわ」

「本人たちがそうしたいなら止めないんですけどね。お母さんとリナさんがそのつもりなら、アリスさんは実家を離れた方がいいでしょう」

 自分に話題が戻り、アリスが居住まいを正した。

「初田先生。家を出なさいって言っても、あたし、仕事してないしお金もないよ」

「大丈夫ですよアリスさん。今すぐにというわけではありません。……いいですか、お母さん。診察の結果、アリスさんは一人暮らしした方がストレスを抱えずにすむタイプの人だと判断しました。そうすれば自傷行為は格段に減るし、食事をきちんと摂れるようになる。食事を摂って体が回復すれば、働きに出るだけの体力も作れます」

 アリスに対してはリナほど執着してないようで、皐月はいやにあっさりうなずいた。

「そうね。とっても素敵な提案だと思うわ。ずっと家にいても駄目なら、アリスは一度働きに出て世間を知った方がいいと思うわ。さっきは疑ってごめんなさいね先生。あなたいい先生ね。帰ったらさっそく夫にも話すわ」

 その顔には、厄介払いできてせいせいしたと書いてある。

 アリスもリナも娘だろうに、アリスの方はそんなに愛していないのだろうか。

 気に入りの片方にだけ愛を注ぐ……皐月の愛情はとてもゆがんでいた。