初田ハートクリニックの法度

 皐月はズボンの布を強く握り、視線を落としながら話し始めた。

「アリスが中学一年、リナちゃんが中学三年のとき。夏休みあたりから、アリスが食事を食べ残すようになって。私がいくら食べるように言っても全然食べてくれなくて、それで、アリスが二年になったとき、アリスにつけていた家庭教師が、リナちゃんに近づくのが目当てだったってわかって……中学三年に上がるころには、アリスの手首は傷だらけだった」

 アリスが自虐的で他人を突き放すのは、それが原因だろう。

 初田は口を挟まず、カルテに必要なところだけ書き込む。

 アリス本人もいじめにあったと言った。

 中学生くらいの子どもなら、軽い気持ちで人の容姿を貶す。

 さらに、家庭教師がアリスを利用していた事実がある。

 人間不信になるには十分すぎる理由だった。

「病院は、隣町にあるT診療所に行ったの。傷薬をもらったわ。先生にやめろと言われてもアリスは自分の腕を切るのをやめなくて。高校受験に落ちてからはバイトもせず家にひきこもっていたの。去年の春頃かな、リナちゃんが心療内科か精神科がいいんじゃない? って提案してくれたの。優しいわよね、忙しい私のためにいろんな病院を調べてくれて」

 T診療所は外科・内科の個人病院だ。

 傷を診ることはできても、なにが原因でストレスがたまり手首を切るに至ったのかまで調べないかもしれない。そこは心療内科や精神科の領域だ。