初田ハートクリニックの法度

 アリスの部屋は自宅の二階にあって、部屋に戻るのもおっくうなくらいだった。

 でもここ数日は足がきちんとあがるし、呼吸も苦しくならない。

 食事を摂っただけなのに偉いと言われて、胸のあたりがこそばゆい。

「今アリスさんの手を取ったとき、すごく冷たかった。食事を摂ることで冷え性改善も期待できるから、ちゃんと食べるんだよ。冷や奴より湯豆腐、ざる蕎麦より温の月見蕎麦という感じで、温かいものを選ぶようにするだけでも違う」

「温かいもの、じゃあホットミルクはちょうどよかったんだ」

「そう。アリスさんにはぴったりだったんだよ。牛乳には健康な体を作るのに必要な栄養素がバランスよく含まれているからね」

 ネルがそこまで考えてホットミルクを推したのかは不明だけれど、アリスの体質改善になっていた。

「これからも焦らず、一歩ずつ前に進めばいい。食事を摂ること以外になにか不安や疑問はあるかな」

「あ……。あたしのことでなく、お姉ちゃんのことなんだけど」

 アリスはリナがついた嘘について話した。

「お母さんにも同じことを吹き込んでいるかもしれないから、気をつけて」

「忠告ありがとう。気をつけるよ。よくリナさんの発言が嘘だって見抜けたね」

「なんでだろう。初田先生って、恋愛ごとや異性に興味なさそうに見える」

「ご明察。アリスさんは人をよく見ているね」

 実際、患者の何人かから「うちの孫を嫁にどうだい」なんて言われることもあったが、全て丁重にお断りしていた。

「それでは、お母さんの話を聞くときはアリスさん同席にしよう。リナさんに傾倒(けいとう)している節があるなら、わたしを疑ってかかる。アリスさんが診察室にいたほうがまともな会話になるだろう」

「わかった」

 皐月を診察室に呼ぶと、予期していたとおり初田を問い詰めはじめた。