初田ハートクリニックの法度

「アリス、あの先生に言われてなにか食べたの?」

「……ホットミルクだけ」

「言ったはずよね。男なんてみんな同じなんだから、信用しちゃ駄目だって」

 リナは端から初田を悪い男だと決めてかかっているけれど、初田と言葉を交わしてみて、アリスの気持ちは変わった。

 アリスの容姿を馬鹿にしない、心と体調を気遣ってくれる男の人もいる。

「お姉ちゃん。あの先生、変なかぶり物をしているけど、話してみたら悪い人じゃなかったよ」

「そうかしら? 私、診察室であの先生と二人になったとき、しつこく連絡先を聞かれたわ。もちろん断ったけれど。以降の通院について来るなっていったのも、ばつが悪かったからでしょ」

 たしかにアリスが一人で話をしたあと、リナも初田と一対一で話をしていた。

 少しの間しか会話をしなかったけれど、アリスは初田がところ構わず女性を口説くような人間だとは思えなかった。

「お姉ちゃん、そのとき初田先生の素顔を見た?」

「ええ。不細工なのが恥ずかしくて、人に見せられないから仮面をかぶるんだって言っていたわ」

 リナの答えに、アリスは思わず笑ってしまった。

 初田の素顔を見て不細工だという人はいないだろう。

 リナを見慣れているアリスが目を見張るくらいには、整った目鼻立ちだった。

 そして何より、本当に初田の顔を見たなら、「殺人犯本人じゃないの」とでも言うはず。

 指名手配されている嘉神平也と全く同じ顔をしているんだから。