初田ハートクリニックの法度

 初田の診療を受けた翌朝。

 アリスは太ってしまうことへの恐怖が拭えないから、せめてホットミルクを飲むことにした。

 ずっと、食べることが怖くて仕方がなかった。

 中学生の頃の、鏡餅のような体型には戻りたくない、その一心だった。

 キッチンに誰もいなくなったのを確認してから冷蔵庫を開けた。

 ミルクパンで牛乳を温め、ネルがくれたハチミツをひとさじ加えてカップに注ぐ。

「なんだ、ようやくなにか食う気になったのか」

 振り返ると、部屋着姿の有人がいた。血圧の薬を飲むつもりらしく、グラスを手にしている。

 アリスの持つマグカップを見て、長いため息を吐いた。

「それ一杯だけか? どうして若い女ってーのは、ダイエットしたがるんだろうな。いいかアリス。お前はリナみたいになれやしないんだから、無駄な努力なんてするもんじゃない」

 アリスは有人の言葉を無視して、キッチンに立ったままホットミルクを飲んだ。

 フライドチキン屋のマスコットみたいな体型をしている父親に、ダイエットが無駄だと説かれるこの腹立たしさをぶつける先が見当たらない。