初田ハートクリニックの法度

「誕生日じゃない日は一年に三六四日もあるのに、コウキくんは塾に行かない日が一日もないんですか」

『ああ。成績を保つにはそれくらい当たり前だ。オレもそうしてきた。入学するまではよかったのに。礼美に任せておいたらこのザマだ。おかしな行動をとったのは礼美の育て方が悪いからだ』

 さっきと矛盾したことを言っていることに、秀樹本人は気づいているだろうか。

 コウキが成功すればオレの手柄、コウキの失態は妻の責任。

「診断書を読んだのなら、あなたは責任を感じなければならなかった」

『は? オレが悪いと? 金を家に入れてやっているのはオレだぞ。オレが稼いだ金がなきゃこいつらは生きていけないんだ』

 カードを持つ初田の指先が震える。

 普段からそう思っていなければ、この発言は出てこない。
 人は逆上しているときほど本音が見える。

「お母さんは常にコウキくんの未来を憂いていたのに、中村さんは保身ばかりなんですね」

 そう、過保護すぎるところは否めないが、礼美の言葉はすべてコウキの未来を案じるものだった。

 食事のバランスやカロリーを気にするのも、健康を案じるから。

 今は好きなものを好きなだけ食べると、小学生でも糖尿病になる時代だ。

 対する秀樹は、妻子を自分のアクセサリとしか思っていない。

 子が優秀だと自慢できる。

 礼美が専業主婦でいるのも、「主人がパートに出るのを許さないからだ」と礼美のメモに書かれていた。

 秀樹は【夫の稼ぎだけで妻子を養う父親】でいる自分が好きなのだ。