初田ハートクリニックの法度

 遊びで虫や小動物を解体するのは、正常な人間がすることではない。

 ましてや、平也は人間、それも父親を殺してバラバラにしたのだ。

 そんな平也と同じ人種じゃないかと、顔を見ただけで判断される屈辱。

 誰が理解できるだろう。

 だからアリスを見ていて、自分と正反対の鏡を見ているような気分になった。

 殺人犯の兄がいるせいで蔑まれてきた初田。

 美貌の姉がいるせいで笑いものにされてきたアリス。

 アリスがどれだけ姉を苦手としているか、見ただけで分かってしまった。
 
 鏡に映る自分をにらみ、初田は爪が食い込むくらい拳を握りしめる。

 一人暮らしだったら、怒りにまかせて鏡を叩き割っていたかもしれない。

 鏡を見ていたくなくて、さっさと髪と体を洗い浴槽に体を沈める。

 浴槽の上に位置する出窓は奥行き十五センチほどで、物を置けるようになっている。

 すりガラスの前には、ネルのお気に入りのバスボムから出てくる動物が並ぶ。

 ネズミにウサギにインコ、カメ、ネコ。

 手作りのテーブルも追加されていて、動物たちがティーパーティーをしているように見える。

 ネルの中ではそれぞれに名前と役割設定があるようで、ちょっと前にいたずら心でメンバーを並び替えたらむくれてしまった。

 初田にはとくに物を集めるような趣味もないため、ネルのこういう無邪気さは微笑ましく思う。

 キッチンの調味料ケースに、ネコ耳やウサ耳のキャップがくっついている。

 院内の観葉植物の根元に陶器の動物が飾り付けてある。

 ネルがいなかったら飾り気のない、殺風景な家とクリニックだったんだろうと容易に想像がつく。

「ネルちゃんって、天然入っているけど話しやすいし良い子よね」と、来院する患者にも好評だ。