初田ハートクリニックの法度

「それじゃあ、次はお姉さんから話を聞こうか」

「なんで?」

「アリスさん本人の口からじゃわからないことを聞かないといけません。アリスさん自身が気づけていないような症状が、同居している家族にならわかるでしょう。話を聞く間、アリスさんは待合室に出ていてください」

 初田はウサギマスクをかぶり直して、待合室に声をかける。
 
「リナさん。普段のアリスさんの症状を聞かせてください」

 雑誌を読んでいたリナは、顔を上げて応じた。

 入れ替わるように、アリスが待合室に出た。

 リナは診察室のソファに腰を落ち着けて、まっすぐ初田を見る。

「それでは、教えていただけますか。アリスさんの自傷行為や嘔吐癖が始まったのは何歳の頃からでしょうか」

「中学二年に上がる頃には、もう腕に傷があったように思うわ。あの頃アリスはぽっちゃりさんでね。アリスは自分はお姉ちゃんみたいに綺麗じゃないからって、サラダ以外なにも食べなくなっちゃったの。私は、ちゃんと食べるようにって何度も言ったんだけど、聞いてくれなくて。今ではあんな感じで。姉さんは心配よ」

 心配だという言葉に反して、顔に浮かぶのは微笑み。

 本当に家族を心配する人間は、コウキの母、礼美のように「薬を飲めば治りますか」「どうすればよくなりますか」と畳みかけるように聞いてくるものだ。

 リナはアリスの具合がよくなるかどうか、なにも聞いてこない。

「中学生の頃、病院には連れて行かなかったのですか」

「さあ。アリスが中学生の頃は、私もまだ高校生ですからそのあたりの決定権はありません。両親が連れて行ったんじゃないかしら」

「そうですか。では次回来院するときには、ご両親のどちらかに同行していただきたい」

 たしかに、二歳差なら当時のリナはまだ学生。

 もっと詳しく当時のことを聞くには両親でないといけない。

 初田の提案を、リナはやんわり断った。