初田ハートクリニックの法度

「男のわたしにこういうことを指摘されるのは腹が立つでしょうが、あまり痩せすぎていては生命に関わる病気になってしまいます。まずは食生活を改善して適切な体重に戻すこと、それから……嘔吐をやめなければなりません」

 嘔吐、と指摘されてアリスは手を強く握りしめた。唇をかんで体を震わせる。

「食べて太れって言うの? 冗談じゃない。あたしは太りたくなんてない。モデルの妹のくせにデブスだってイジメられたあたしの気持ちが、あんたにわかる!?」

「そうですね、体重のことではないですが、わたしも理不尽に罵られる人生を送っているので。わかります」

「嘘よそんなの。表面上で理解者のふりをしているだけでしょ! 医者なんてみんな同じよ。あんただって、あたしのこと、ブスで手のつけようがない精神異常者ってバカにして笑うんだ」

 人を疑い、怯え、自分を傷つけずにはいられない。

 アリス自身にも、どうにもならないのかもしれない。

 本来なら患者に顔をさらさない。

 けれど、アリスを納得させるためには必要なことだと思い、初田はウサギマスクに手をかけた。

 事件当時何度もテレビで特集を組まれていたから、アリスもこの顔(・・・)を見たことがあるだろう。

 初田の顔を直視して、アリスは唾を飲み込んだ。