初田ハートクリニックの法度


 たいていの人間はウサギマスクを見た途端ふざけんなと怒るが、この二人は動じなかった。

 ネルが紅茶を運んできて、初田はアリスに紅茶を勧める。

「わたしがここの医師、初田です。どうぞよろしく、アリスさん。もっと紅茶をどうだい」

「……いら、ない」

 アリスは掠れた声で、一言だけ答えた。

 視線は足元、自分の肘を抱え込むように腕をさすっている。

「アリスさんから事情を聞きたいので、あなたは外に出ていていただけますか」

 初田はいつもの調子で、付き添いの女性にお願いをする。

 女性は一瞬顔をしかめたが、すぐに微笑み、頬に手を当てながら小首をかしげる。

 ミイラのようなアリスと違い、出るところが出て腰はくびれている。

 はやりのワンピースに流行色のメイクをしていて、指先も綺麗にネイルアートが施されていた。

 自分が美しいとわかっているタイプの人間だ。

 女性の笑顔には、美貌への自信がありありと見えた。

「私がいては不都合ですか? 姉として、妹がなにかされないか心配です」

「アリスさんのお姉さんですか。心配なのはわかりますが、ご家族が一緒だと萎縮して話せない人も多いのです。だから待合室で待機してもらえませんか。適切な治療をするためにも、本人から話を聞くのは必要なことです」

 初田の説得に応じて、姉はアリスに何か耳打ちしてから診察室を出て行った。