初田ハートクリニックの法度

 二月の終わり、新たな患者が初田ハートクリニックの扉をくぐった。

 初田が以前勤めていた、総合病院の鳩羽(はとば)からの紹介状を持っている。

 有沢(ありさわ)アリス。二十二歳。若い女性に付き添われて診察室に入ってきた。

 院内は暖房が効いているので、アリスが脱いだコートを女性が脇に抱えている。

 アリスは病的なまでに痩せていた。

 痩せている人を指す言葉で骨と皮というものがあるが、アリスはまさにそれだ。

 デニムパンツをはいた足は棒のよう。

 ロングTシャツからのぞく腕はリストカットの傷痕だらけ。

 手の甲には、喉に手を入れて食べた物を嘔吐する人間特有の傷痕ができている。

 初田を見る顔は肌がかさつき、生気がない。茶髪は染めてからだいぶ経っていて、根元の黒がだいぶ見えてしまっていた。

「アリス、ほら先生にご挨拶をなさい」

 女性に促され、アリスは会釈してから椅子に腰かけた。