初田ハートクリニックの法度

「根津美さん、ほらあれみて」

 他のみんなも事前の予定通りサッとあの場から離れたから、花森と東堂が二人きりになっている。

 声が届かない範囲だから会話の内容まではわからない。

 みんなが息をのんで見守る中、東堂が首を左右に振って、花森が暗い面持ちでうなだれる。

 それが答えだった。

 東堂はみんなが遠巻きに見ているのに気づいてこちらにやってきた。

 ものかげに隠れていた男子の襟首を捕まえて、東堂が眉をつりあげる。

「お前ら趣味悪いぞ」

「わりーわりー。東堂って彼女ほしいって言ってたからOKするかと思ったぜ」

「誰でも良いって訳じゃない。高校の時さんざんチビチビからかわれたの忘れてねーからな」

 高校の時、花森と東堂は顔を合わせるたびに口げんかをしていた。

 花森が東堂の背が低いことをからかって、東堂が言い返すのが主だった。

「俺は気遣いできる優しい子が好みなの。助けられたお礼に飴をくれるような」

「やたら具体的だな」

 東堂はネルの方に来て、視線を合わせる。

「根津美。ここで会えたら言おうと思っていたんだ。高校の時、お前のこと好きだった。あ、別に付き合いたいとかじゃない。伝えなきゃ後悔する気がして」

 花森の気持ちを聞いているので、ネルは困った。

 東堂に対して友だち以上の気持ちを持ったことがない。なにかと気を遣ってくれていたことに感謝はしているけれど、それは恋愛的な好きではなかった。

 だからネルは素直に答える。

「気持ちには応えられないけど、感謝してる。東堂くんが助けてくれていたから、ちゃんと卒業できた」

 人の心はままならないと、ネルは思う。

 好きな人が自分を好きでいてくれるとは限らない。

 一方通行のこともある。