初田ハートクリニックの法度

 ネルの肩をつついて、「その話、あっちで詳しく聞かせて」とひっぱる。

 このままいけば東堂と花森が二人きりになれると考えて、大人しく事情聴取をされることにした。

「かんざしをくれたお兄さんって、高校の時に同居しているって言っていた親戚の?」

「そう。初斗にいさん。今は自分のクリニック持ってる」

「なにそれ玉の輿じゃん!」

「たまのこし……? 私、恋人すらいないのだけど」

 初田が自分のクリニックを開くのと、ネルが結婚する話がイコールになるという計算式がわからなかった。

 ネルの困惑をよそに、元クラスメートたちがきゃいきゃい盛り上がっている。

 女子の中でも一番おしゃれだった子が、ネルのネズミかんざしを指して言う。

「根津美さん、かんざしの意味を知らないの?」

「なに」

「男が女に櫛やかんざしを贈るのは、結婚してくださいって意味なのよ。うちのママ和装雑貨の店で働いているから分かるの」

 ネルはようやく合点がいった。

 前撮りのときに友子も驚いていたけれど、そういう理由だった。

 贈った当人である初田はそもそも意味を知らなかったので、ネルと同じように首をかしげていた。

 贈り物の意味を聞かされて、ネルはふと考える。

(最初から意味を知っていたら、初斗にいさんはかんざしをくれなかったかな)