初田ハートクリニックの法度

「にいさん、初斗にいさん」

『ネルさん、大丈夫ですか。平也は』

「どっかいっちゃった」

『すぐ迎えに行きます。できるだけ人通りの多いところにいてください』

「うん」

 駅前の石像横に座ってひたすら初田を待つ。

 初田が迎えに来てくれるまで、生きた心地がしなかった。

「ネルさん!」

「にいさん」

 初田にすがりついて、手を握る。

 いつもの温かい手だ。

 ウサギマスクはやっぱりとっても目立つから、人がちらちらとこちらを見ている。

「初斗にいさんはここにいる?」

「わたしは初田初斗。ちゃんと、ここにいますよ」

 ネルは呼吸を落ち着けて、さっき平也とすれ違ったことを話す。

 初田は静かに話を聞いて、背中をさすってくれた。

「この町のどこかに住んでいるのか、それとも偶然この駅で降りただけなのか……」

 初田が近辺に住んでいるからこそ、この町に潜伏していたという可能性もある。

 誰かに「嘉神平也では?」と指摘されても初田初斗だと名乗れば逃げられるのだから。
 
 初田の存在があるからこそ、平也はいつまでも逮捕されずにいた。これ以上の屈辱があるだろうか。

「帰りましょうネルさん」

「うん」

 ネルは差し出された手を取る。

 いつもよりも初田の手に力が入っている。

 平也がネルの存在を知って、何かしてくるのではないかという不安と恐怖が、初田の心の片隅に住み着く。

 何があっても必ず守らなければならないと、心に誓った。


 ケース2 根津美ネルの場合 ─眠り病の同居人─ 終