初田ハートクリニックの法度

 初田ハートクリニックは順調で、新しい患者も増えている。

 本日最後の患者、珠妃コウキが帰るのを見送ってから、クリニックの扉を閉めた。

 十二月の半ば、アーケードのクリスマス飾りが雪の帽子を被っている。

 五メートルはあるクリスマスツリー、トナカイの形をした植木、星型の電飾。

 BGMはクリスマス曲のオルゴールメドレー。

 これらはクリニック向かいにある【セレクトショップWonder Walker】の店主蛇場見歩(じゃばみあゆむ)が主導している。

 歩は初田の友人なのだが、この手のセンスがずば抜けて高い。

 玄関のガラス扉にCLOSEの札を下げながら、初田はネルに声をかける。

「ネルさん、明日は通院日でしょう。今のうちにノートを渡しておきますね」

「あ、だめですよ初田先生。仕事とプライベートは分けるって約束したのは先生の方なのに」

「すまないね、つい。根津美さん」

 仕事の時に名前で呼び合うと変に勘ぐられてしまうからと、診療時間はお互い名字で呼ぶと取り決めをしていた。
 
「夕ご飯のおかずを一品あげるので、許してください」

「たくさん食べたら太っちゃうからいいですよー。焼き鮭は一度に二つもいりません」

 ネルはクスクスと笑って、後片付けを始める。

 明日はクリニックの休診日、かつネルの通院日だった。