初田ハートクリニックの法度

 ネルは今もまだ、現実とまぼろしの見分けがつかない。

 何度も何度も確かめるように聞いてくる。

 だから初田も何度でも答える。

 ネルが今ちゃんとここにいると教えるために。

 初田もまた、ネルがこうして必要としてくれることで自分をつなぎ止めていた。

 どれだけの人に「殺人鬼の弟だ」と言われても、まっすぐ前を向いて歩いていられるのはネルがいるからだった。

 ネルが初田初斗を呼んでくれるから、自分は初斗なのだと自信を持って言える。

 一方が寄りかかるのではなく、互いが互いの道標(みちしるべ)で、支えだった。

 いつまでもこうしていられるわけではない。

 成人したということは、自分の意思で未来を選べる。

 ネルがいつか、一生添い遂げたいという人を見つける日が来るかもしれない。

 その日が来るまでは、初田がこうしてネルを導いて歩く。

 何度でも、呼ばれるたびに答える。

 わたしはここにいます、と。