初田ハートクリニックの法度

「当日もこのネズミちゃんがいいな。ドレスにも合わせられるよね」

「そこまで気に入ってくれたなら、選んだ甲斐があります」

 ネルと友子が部屋に入っていき、初田は待合室で医学雑誌を読んで待つ。

 一時間ほどで、「終わりましたよ」とスタッフに呼ばれてスタジオに入った。

 薄紫を基調とした晴れ着に身を包んだネルは、まぶしかった。

 この日のために伸ばしていた髪を結い上げて、つまみ細工の花飾りと櫛、かんざしをしている。

 薄く施された化粧も、ネルの柔らかな雰囲気に合っている。

 弱々しくて折れそうだった少女は、今や息をのむほど美しい女性へと成長していた。

「どうかな、にいさん」

 ネルが期待と不安をにじませて初田を見上げる。

「とても綺麗ですね。見違えました。よく似合っています」

「えへへ。にいさんにそう言ってもらえてよかった」

 ひとかけらのお世辞もなく、するりと本音が口をついた。

 ネルも初田を見上げて誇らしげに微笑む。

 これまで友子が娘を見てきた中で、一番嬉しそうな笑顔だ。

 誰がどう見ても相思相愛なのに、気づいていないのは本人たちだけ。