初田ハートクリニックの法度

 桜の飾り彫りがされた乳白色の(くし)と、同じく乳白色のかんざし。

 かんざしの先はネズミの形になっていた。

「わあ。白いネズミちゃんがついてる。かわいい! 初斗にいさん、ありがとう。お母さん、これつけてってお願いしたらつけてくれるんだよね」

 スキップするネルを横に、友子が櫛とかんざしの素材に気づいて声を震わせる。

「は、初斗君。象牙って、これ、すごく高かったんじゃ」

「女性に贈るならきちんとしたものにしましょうと、総合病院にいたとき看護師たちに怒られまして。ちゃんと小間物屋で買いました」

 象牙(ぞうげ)の小間物セット、お値段十万円である。

 以前渡したお箸トレーニングセットが二千円かそこらだったので、ちゃんと勉強したつもりであった。

あれは安物を渡すなという意味だったと解釈している。

 友子がこめかみに親指を押し当ててうなる。

「ちなみに、男性が女性にかんざしと櫛を贈る意味は知っている?」

「はて? なんでしょう。もしかしてものすごく縁起が悪いんですか。でもそれなら店の人が止めるはずですし」

「あなたは頭がいいのか悪いのかわからないわね」

 江戸時代に生まれた風習で、櫛は『人生は()労がたくさんあるけれれど、()ぬまで共に生きよう』という意味を込めて贈る。

つまりプロポーズだ。

 かんざしは、『あなたを守ります』これもまたプロポーズの際に贈られていた。

 医学以外に興味の無い初田に、装飾品を贈る意味なんて分かるわけがなかった。

 ネルも特に意味を知らないけれど、とても気に入ったのでスタイリストにつけてもらうよう頼んだ。