初田ハートクリニックの法度

 クリニックを開業した年の二月。

 初田は成人式前撮りのために、ネル、友子の二人とフォトスタジオに来ていた。

 当日何時間も着物ではネルの体力が持たないということで、前撮りだけ着物、当日はドレスの予定だ。

 ネルが二年前から友子とレンタル着物カタログを読みこんで決めた、お気に入りの一着。

 ネルは前撮りの数日前からそわそわしていて、訪れる患者たちに微笑ましいですねなんて言われてしまうくらいだった。

 着替えに向かうネルに、初田は前もって用意していた(くし)とかんざしのセットを贈る。

「成人のお祝いです。どうぞ使ってください」

「いいの?」

 初田なりに、髪飾りくらいは自分のものだと嬉しいのではないかと考えて、東京の小間物屋(こまものや)で選んだ。
(あやしまれると悪いので、普通の不織布マスクで行った)

「同居している女性に贈る」と説明したら、店主の女性がやたらとはりきって包装してくれた。

 頑張れと言われたが、なにを頑張ればいいのだろう。