初田ハートクリニックの法度

「人間観察が趣味なもので」

「変な趣味ですね」

 初田は笑って白衣のポケットに手を突っ込む。

「お礼にあげられるものがこれくらいしかないけど」

 ネルが気に入っているから買い置きしている、イチゴ味の飴だ。

 それを渡すと、東堂はなぜかお腹を抱えて笑い出した。

 養護教諭も笑っている。
 
「これ、きのう根津美からもらった」

「私もよくネルさんからもらいます。兄妹そろって同じことをするものだから、おかしくって」

 知らないうちにネルと同じことをしていたらしい。

 遠縁だから血のつながりは薄いはずなのに、いつの間にか行動パターンが似てくるなんて面白いこともあるものだ。

 初田もなんだか笑ってしまった。


 後日、東堂と花森がクラスメートに話してまわってくれたようで、ネルはこれ以降嫌がらせなどをうけることなく高校を卒業することができた。

 友子も「ネルが卒業できてよかった」と、ハンカチを五枚も濡らして喜んだ。

 高校卒業後はマンションから通えるところにある医療事務の専門学校を出て、希望通り医療事務の試験に合格した。

 初田も五年の後期研修を終えて、自分のクリニックを開く準備が整った。

 開業の前日。

 かねてからの宣言通り、白兎が壁掛けの時計を持ってお祝いに駆けつけた。

 友子と初音、そして初田の唯一の友人も来てくれて、みんなでお茶会を開く。

 こうして、初田とネル二人三脚で営む初田ハートクリニックが開業した。