初田ハートクリニックの法度

 ずっと見守っていた東堂は、ほう、と息を吐く。

「本物の医者ってすげえんだな。俺、かっとなって殴りそうになった」

「これでも精神科医ですので」

 初田は基本声を荒らげたりはしない。

 親の離婚や父の葬儀でも涙一つ出なかった人間だ。

 怒りや悲しみという感情を母親の腹に置いてきたんじゃないかと揶揄われるくらいだ。

 笑顔以外の感情を人に見せないため、狂った帽子屋(マッドハッター)というあだ名はまさに的を射ていた。

「昨日に引き続き、君には助けられたよ。何かお礼をしないといけないね」

「そんな、礼なんて要らないです。俺は困っている人を放っておけないだけで」

「君は警官や消防士のような仕事に向いていそうだね。緊急時、即座に動ける判断力もある」

「なんでわかったんです? 俺、消防士の学校を希望していて」

 本当に根っから人を助けるために走り回るタイプの人間らしい。

 性格から言っても向いているし、きっと現場で活躍するだろう。