初田ハートクリニックの法度

 養護教諭と東堂が怒鳴りそうになるのを、初田が手で制した。

「善意、ですか。ではこれを差しあげましょう」

 初田は自分の胸ポケットにさしていたボールペン二本のうち、古い方を花森に差し出す。

 インクが切れかかっていて、文字がかすれる代物だ。

 クリアデザインなのでインク切れが一目でわかる。

「は? なにこれ。こんなゴミ要らないわよ!」

「善意です。善意は受け取るべきなんでしょう? どうぞ使ってください」

「意味がわからないんだけど」

「あなたと同じことをしただけです。あなたがゴミを要らないと言ったように、ネルさんも、あなたの言うところの善意(・・)は要らないものだ」

「でも、あたしたちあれくらい動いたってなんともないのに」

 憤慨(ふんがい)する花森に、三人の女生徒が同意する。
 
「健康な人間なら一日十四時間起きて活動することができますが、ネルさんはナルコレプシー。毎夜に睡眠を取っていても、普通の人が三日貫徹したような強い眠気を伴います。だからこまめに休息を取らないと体を維持できない。そんな病人の体に鞭を打って、なにが善意なんですか。相手が望まないことを強要するのは善意と言いません」

「そ、それは」

 初田はただただ穏やかに、四人に質問する。

「もう一度聞きます。なぜこんな真似をしたんですか」