初田ハートクリニックの法度

 ポケットに入れていた布マスクで口元を覆う。

 病院名と科名が入った名札を見せて、慌てて自己紹介する。

「初田と申します。ネルさんの保護者です」

「……初田さんの顔、前にテレビで見たことある」

「世界には同じ顔の人が三人いるって言いますからね。似ている人がいるのは当然です」

 おそらく東堂が言おうとしたのは嘉神平也のこと。

 初田と嘉神平也は一卵性の双子だから、どうしてもこういう反応をされる。

 学校で「ネルの保護者は嘉神平也だ」と間違ったことを言われたら一巻の終わりだ。

 早く話を切り上げたくて、ネルは初田の袖を引いて歩き出す。

「仕事忙しいのに、ありがとう、にいさん。帰ろう」

「それでは、これで失礼します」 

 東堂に軽く挨拶して、足早に場を離れた。

 人通りの少ないところに来てから、初田は小さくこぼす。

「すみませんネルさん。うかつでした」

「だいじょうぶ」

 クラスメートとはいえ、今日初めて会話した人だ。

 明日学校で顔を合わせても、そうそうネルと初田のプライベートについて突っ込んだことを聞いてくることはないはず。

 だからネルは大丈夫だと繰り返した。