初田ハートクリニックの法度

「なら、ネルさんが見分けられるようになるまで何度でも言いましょう。帽子屋と眠りネズミのお茶会は終わらないのが常ですからね。ネルさんが嫌になっても言ってあげます。わたしはここにいるし、ネルさんはちゃんと、わたしと手を繋いでいますよ」

「初斗にいさんには、初斗にいさんの人生があるのに。初斗にいさんは、自分の病院を持ちたいって、言ってるのに」

 誰かの迷惑にしかなれなくて、自分が嫌になってしまう。

 泣きそうになるネルの心を、初田が引き戻す。

「ネルさんはやりたい仕事がわからない、夢を探している途中だと言っていましたね。卒業後もどうしても見つからなかったら、わたしのクリニックを手伝ってください」

「にいさんの、クリニックを?」

「そう。ほら、わたし犯罪者の弟じゃないですか。そのせいでうちの受付になりたいって言う人がいないんです。
ネルさんが嫌じゃなければ、就職先の候補の一つにしておいてください。福利厚生として、お昼寝の時間をきちんと確保します」

 初田は冗談めかして、優しい笑顔で言う。きっと半分は本当だ。

 親戚の人たちですら、「殺人鬼の弟なんか信用できない」と陰で言っていたのだ。

 口さがない赤の他人ならもっと聞こえよがしに言う。

 初田本人は何も悪いことをしていないのに、味方になってくれる人はほとんどいない。

 それなのにネルのことを助けると言ってくれる。

 だから、ネルは迷わないで答えた。

「うん。初斗にいさんのクリニックで働く」