初田ハートクリニックの法度

 【中村礼美】
 旧姓珠妃(たまき) 三十八歳
 兄弟はなし
 十歳、両親が離婚
 母に引き取られ、高校卒業と同時に家を出る
 二十歳のときに結婚

 夫、中村秀樹、四十四歳
 兄二人がいる三人兄弟の末子
 A国立大卒後、現在勤めている会社に就職

 問診票に目を走らせ、初田は質問する。

「コウキくんに話を聞いたとき、祖父やいとこの話題は出ませんでした。夏休みに遊びに行ったりはしませんでしたか。母方父方どちらでも」

「正月や盆、主人の実家にお邪魔するくらいです。いとこは全員コウキよりひとまわりは年上の女の子で」

 ひと目を気にする、ひいては親戚付き合いを重視する。
 なのに正月や盆に行くのが夫方の実家のみ。

 礼美が自分の母親と仲が良くないのか、夫が妻側の親族を訪ねるのを良しとしないのか。
 あるいはその両方か。

 いとこがいても異性の上、その年齢差では友人のような関係は築けなかっただろう。

 そして内孫で初の男子ともなれば親戚からの期待は大きい。

「なるほど。ありがとうございます。参考になりました」

「あの、コウキは薬を処方されたりするんですか。薬を飲めば変な行動を取らないですか?」

「それで治るなら前の主治医がそうしています。
 薬で思想や性格を変えることなんてできやしません」

 初田はどこからか猫のぬいぐるみを取り出して、指で切るような仕草をする。

「虫の解体をすっ飛ばして、いきなり()の解体ショーをするなんてことはありえない。お母さんが気づかなかっただけで、コウキくんは学校帰りや塾の行き帰り、道端で見つけた虫を殺したことがあるはずだ。赤唐辛子の話を聞いて、嫌な顔をしたのはお母さんだけ(・・・・・・)でした」