初田ハートクリニックの法度

「ネルさん、手が止まっていますね。なにか悩みごとですか」

「……ないよ」

「嘘はいけません。新米とはいえ、これでも精神科医ですから、それくらいは見抜けます」

 向かいの席から向けられるまなざしは、責めるような色がいっさいなくて、ただただネルを心配している。

 母と同じ、ネルを労る色だ。

(お父さんが生きていたら、こんな感じだったのかな)

 父を知らないネルにとって、親身になってくれる初田は父親のようなイメージだ。

 ごまかしても無駄だとわかったので、素直に口にする。

「今ここにいる初斗にいさんは、本物?」

「どういうことです?」

「まぼろしじゃ、ない? 私は本物と幻、見分けがつかないの。卒業できても、こんな状態で、やとってくれるところあるのかな」

「それが不安なんですね」