初田ハートクリニックの法度

 仕事中はネルの体調をみることができないため、初田は机の中からスケジュール帳を出してネルに渡す。

「頭痛や吐き気、喉が渇く……副作用かもしれないと思う症状が出たら、書いてください。次に白兎先生のところに行ったときに見せたら、薬の量を調整してくれる。それと、お昼には一時間ほど昼寝をしてください」

「わかった」

 ネルは素直に手帳を受け取って、手帳の表に名前を書く。

「あと、ネルさんは携帯電話を持っていなかったね」

「お母さんが、まだはやいって言ってたから」

 高校一年生で携帯電話を持たせるかどうか、母親なら迷うはずだ。

 携帯電話が無いとクラスのコミュニティになじめないんじゃないかとか、あったらあったでネットいじめに遭うんじゃないかとか。

 どの道メリットとデメリットがある。

「じゃあ電話機能だけのを買おう。ネルさんの具合が悪くなったとき、すぐ電話できた方がいい」

「でもお金かかる」

「大丈夫。必要経費だ。わたしが面倒を見ると言ったのだから。ご飯は冷蔵庫の中のものを好きに食べていい。今日はこのあたりを散策してみなさい。ネルさんの通っている学校はここから三駅だから、通学にも不便しないはずだ」

 出勤の準備をしている間に、ネルがまたおにぎりを作ってくれていた。

「おべんとう」

「ありがとう。お昼の時にいただくよ」

「ん。いってらっしゃい」

 アルミホイルでくるまれたおにぎりはお世辞にもきれいな形ではないが、ネルが自分なりに役に立てることを探した結果だ。

 手作り弁当なんて高校生のとき以来だな、なんて考えながら病院に向かう。