初田ハートクリニックの法度

 ナルコレプシー患者は、眠りにつくときと目覚めるとき、しばしば幻覚を見ると聞いていた。

 本人は幻覚だと気づいていないため、会話することで初めてそれが幻覚だとわかる。

「……朝ご飯を食べましょう。白兎先生が処方してくれた薬を飲み忘れないようにしましょう」

「ん」

 普段は買い置きの惣菜や菓子パンが朝食だったと言っていたので、食生活の改善も白兎の指導にあった。

 高校生の女の子ならタンパク質を多めにとったほうがいいか、と頭の中で食材の栄養価を思い起こしながら朝食の支度をする。

 着替えを済ませたネルが、初田の袖を引っ張る。

「なにかしたい」

「ネルさんは料理ができますか?」

「カップ麺なら」

「それは料理じゃありません」

 料理をしたことがない人間に教えたことがないため、初田は考えを巡らせる。

「では、おにぎりを作ってくれるかな。そこの棚に海苔が入っているから」

「はい」

 普段は茶碗に盛るだけなのだが、ネルが何かやりたそうなのでお願いしてみる。

 初田がとうふの味噌汁と肉野菜炒めを作っている間、ネルはいびつなおにぎりを四つ作っていた。