初田ハートクリニックの法度

 朝、初田は七時前に目が覚めた。

 隣のネルは起きていたものの、ふとんの上に座ったまま部屋の隅をじっと見つめている。

 そこには何もない。

「ネルさん、おはようございます」

 どこから声をかけられているのかわかっていないのだろうか。

 初田が目の前で手を振っても反応しない。

 肩を叩くと、何度も瞬きしてようやく視線を合わせた。

「朝ですよ、ネルさん。どうしたんですか、ぼんやりして」

「いま、猫ちゃんがいなかった?」

「わたしとネルさん以外には誰も住んでいませんよ」

 葬儀場でもそうだった。

 友子に揺り起こされたとき、「おばあちゃんならさっき絵本を読んでくれていたよね」と、不思議なことを言っていたのだ。