初田ハートクリニックの法度

「お母さん、こちらにあなたとお父さんの、結婚するまでの生い立ち家族構成についてご記入ください。コウキくんはあなたが母親になってからのことしか知らないでしょう」

「は? 私の生い立ちがコウキのことと関係あるの?」

「あるとも。あなたとコウキくんは非常によく似ている。気づいているかな。人の目を気にして、顔色を窺ってばかりいるでしょう。ここに来るのにも、普段着で問題ないのにきっちりとスーツを着てきた」

 初田ハートクリニックは個人病院。

 都市にあるような総合病院と違って気負うことはない。

 たいていの患者は普段着でくる。

 それを、礼美は商社の営業かと思うようなきっちりしたスーツ着用で、しっかりと化粧までしてきた。

 息子にもシャツとスーツのパンツを着せて。

 二人ともあたりを気にしながら診察室に入ってきた。

 コウキのことを聞いても、息子が夫と親戚からどう評価されているかを気にしている。

 初田の目には、中村母子は本質がとても似ているように見えた。

 礼美もおそらく精神的疾患を抱えている。

「わたしはホラ、見ての通りウサギでしょう? だからあなたがた母子はここへの紹介状を出されたんだ。親戚の目は気になっても、赤の他人……他《た》ウサギの目を気にしたって意味はないだろう」

 表情こそ見えないけれど、初田の声音は穏やかで楽しそうだ。

 この初田というウサギ男は変人呼ばわりされていることを自覚しているようだし、自覚した上でのんびり気ままに生きている。

 気ままで、たぶんコウキと礼美がどんな行動をとっても気にしないのだろう。

 猫の話を聞いても平然としていたくらいだ。

 礼美は深呼吸して、問診票に記入した。