初田ハートクリニックの法度

 同居すると言っても二人の間に恋愛感情などない。

 経緯をきちんと説明しているのに、初音はまだ笑っている。

「手術が終わって三日だろう。あまり笑うと傷に響くと思うんだ」

「ほらそれ。そういうことには頭が回るのに。……あんたの変わり者なところを知った上で同意してくれるんだから、ネルちゃんはよっぽど心の広い子なのね」

 これ以上話しているといじり倒されるだけな気がして、初田は早々に退散した。

 仕事の合間も、昨日の時点でいなかった医師や看護師から根掘り葉掘り質問攻めにされる。

「初田先生のことは今日から光源氏(ひかるげんじ)と呼ぶべきかな」

「嫁にするつもりで引き取るんじゃないよ」

「兄妹でもない妙齢の男女が同棲するんだから、なにも起こらないわけがないだろう。俺が嫁と婚約中に同棲した時なんてなーー」

 先輩医師の妄想と自慢を聞くのがめんどうになり、初田は生返事だけしてレポートまとめに脳のリソースを割く。
 
(なんでみんなこういう俗な話が好きなんだろう)
 
 ネルに対して劣情を持っていると勘ぐられるのは楽しいものではない。

「初田先生。脳神経内科から内線です」

 天の助けだ。