初田ハートクリニックの法度

 病室の準備が整い、ネルが病室に入ったらPSGの器具が装着される。
 
 初田は精神科に顔を出し、事の次第を報告した。

 ネルを連れてくる前に大まかなことはメールで伝えてあったのだが、精神科のほかの医師に話を終える頃には夜九時をまわっていた。

 白兎がネルの主治医となるので、いったん白兎のもとに戻る。

 白兎と初田は医大の先輩後輩の間柄だ。

 そのため学生の頃と変わらず、初田は白兎に頭が上がらない。

 白兎は休憩室でパイプ椅子に深く腰掛け、濃いめのブラックコーヒーをすする。

「君も飲むかい?」

「……毎度毎度、わたしがコーヒー嫌いとわかっていてなぜ勧めてくるんですか」

 初田はうんざりした顔で、紅茶を飲む。 

「ネルさんの症状、睡眠発作に加えて情動脱力発作《じょうどうだつりょくほっさ》もあるんだろう。それさえなければ突発性過眠症だったんだが」

「ええ。カルテにも書きましたが、お母さんと話しているときに突然畳の上に倒れてしまって、自力で上体を保てなくなっていました。数分で回復しましたが、ろれつもまわらなくなっていたので間違いないでしょう」

 情動脱力発作というのは、ナルコレプシー患者特有の症状だ。

 喜怒哀楽、感情が大きく変動したときに、筋肉に力が入らなくなってしまう。

 通常は数秒から数分で回復する。

 ネルは睡眠発作が起きたときにいびきがなく呼吸が落ち着いているため、睡眠時無呼吸症候群は除外している。