初田ハートクリニックの法度

 自販機で買った紙コップの紅茶を飲みながら、初田はネルが食事をとる様子を観察する。

 クロス箸と呼ばれる間違った持ち方で、迷い箸もしている。

「ネルさん。普段お母さんとご飯を食べるかい?」

「ううん。お母さん、朝七時には仕事に行くし、十一時くらいまで帰ってこないから。いつもひとりで食べてるの」

「そう。ネルさんのお母さんは頑張り屋だね」

「うん」

 ネルはにこにこと笑う。

 やはり母子で過ごす時間をあまりとれていないようだ。

 箸の持ち方を正す機会もなく、顔を合わせる時間が少ないからこそ病変にも気づけなかった。

 そして友子の出勤帰宅時間は、ネルの起床時間と就寝時間とも合致している。

 ネルが少しでも母親と顔を合わせたくてそうしているのだ。