彩歌とすれ違ったあとの帰宅途中、またあのゾンビおばさんに再会した。
ゾンビおばさん「あらぁ、琢磨ちゃん、元気?顔色良いねぇ」
琢磨「え?そうですか?実はある意味振られたので、顔色悪いと思うんですけど」
ゾンビおばさん「やだわぁ、ゾンビの私たちからみたら、ナマミはみんな顔色良いわよぉ!」
琢磨「……それもそうですね」
ゾンビおばさん「琢磨ちゃん、ここ笑うところなんですけど」
琢磨「そんな気になれなくて」
ゾンビおばさん「琢磨ちゃん、何か寂しそうね」
琢磨「そう……ですかね」
ゾンビおばさん「ゾンビになれば、悲しいことも薄まるわよ。でも……悲しさがあるってことは、それだけ何かを大事にしている証拠よ」
琢磨(まさか、ゾンビに励まされるとは思わなかった……)
琢磨「そうですね」
ゾンビおばさん「まぁ、とにかく、ナマミは寝るのが基本。私たちは寝なくても平気だけどね」
琢磨「あれ?おばさん、最近ゾンビーナ使ってます?右頬が少しだけ腐敗しているような」
ゾンビおばさん「あらやだ!すぐ帰ってゾンビケアしなきゃだわ!とにかくたくさん食べて寝るのよ!」
琢磨「ありがとう!おばさん」
◆
次の日の仕事中、いつものゾンビ女子社員が珍しくミスをして落ち込んでいる──ように見えた。
琢磨「大丈夫ですか?」
ゾンビ女子社員「うん、大丈夫……こんな時泣けたら少し楽なのに。涙の成分は私たちゾンビの身体に一番良くないの。腐敗が進むのよ」
琢磨(あ、そっか……涙流せないんだ……だからいつも笑ってるんだ)
琢磨はドキッとした。
琢磨(感情表現が少ないって楽なんだろうか。それとも空っぽなだけ?ファニエストゾンビは常に笑っている。それってどうなのかな?数百年も笑ったまま……?)
◆
昼休み。琢磨はいつものように屋上で一人から揚げ弁当を食べていた。普通ならランチタイムなのに、食べもせず働き続けるゾンビたち。静かな空に琢磨の咀嚼音が響いた。そこへまたゾンビ社員がやってきた。
琢磨(この人──いや、このゾンビまた来た。ゾンビでもさぼり癖があるやつはいるんだね)
ゾンビ女子社員「今日もまた食べてるの?あ、から揚げ弁当ね。この咀嚼音が一番好評だからまた撮っても良い?」
琢磨「どうぞ。ナマミの俺が、ゾンビのあなたたちに貢献できることは限られているし。これが僕の生き方かなって思ったりするんで」
だいぶ自虐ネタが出来るまでになってきた。ゾンビ相手に、ナマミの自虐ネタが通用するかわからないでいた琢磨ではあったが。
◆
琢磨が仕事を終え帰ろうとすると、自分のスマホに、ゾンビ推進組合から社内メールが届いているのに気づいた。
『前回のパッチテストはあくまでも目安です。
再テストの結果、基準のパーセンテージまで上がったナマミもいます。
今月末までに再テスト可。
Z-3自発的ゾンビ申請は引き続き受付中です』
──一瞬、琢磨の歩く足が止まる。でもすぐスマホを閉じてポケットにしまった。
◆
その夜、琢磨が帰宅途中の坂道を歩いていると、通り過ぎるゾンビカップルの笑い声が聞こえた。街中では、パリピーゾンビが奇声を上げている。公園の脇を通ると、ゾンビ親子が楽しそうに遊んでいた。
琢磨「あの親子、朽ち果てるまでずっと親子のままなのかな……それもなんか空しい。成長しないなんて……」
そんな街中を歩きながら、琢磨は、心の内側からこみあげてくるものを感じた。思わず泣きそうになるのをぐっと堪えて、そしてふと微笑んだ。
琢磨「この世界には、もう僕の普通なんて残ってないかもしれない。でも、それでも……ナマミでいるこの僕が、ナマミとして笑えるなら、それも、悪くないか」
そして今日も、明日も、明後日も、ファニエストゾンビに囲まれて、僕のナマミ人生は続いていく……。


