朝起きたらゾンビばかりでした。でも、なぜか襲ってこないんです。そこで僕は名付けました──ファニエストゾンビ、と。


 次の日の通勤中、琢磨は中学時代の同級生、彩歌に偶然出会った。声をかけられたが、琢磨は最初誰だか分らなかった。それもその筈、グレーの肌だったからである。しかし、清潔感のある髪や、明るく落ち着いた笑顔に見覚えがあった。

琢磨「……え、彩歌?ゾンビになったの?」
彩歌「うん。パッチテストで96%適合してしていたから、いっそのことって」
琢磨(パッチテストって、あのトイレに貼ってあったやつか……)
琢磨「でも、何か彩歌変わったよね?」
彩歌「ゾンビになったんだもん。そりゃ変わったよ」
琢磨「そうじゃなくて……昔よりあか抜けたっていうか……」
彩歌「肌はグレーになったけどね(笑)」
琢磨「いや、何か、幸せオーラっていうか。まとっている空気が明るいっていうか」
彩歌「そう?」
琢磨「それにしても、ゾンビって自分から進んでなれるんだね」
彩歌「そうよ。知らなかった?」



今日は昨日と違って出社まで少し余裕があったので、会社近くの公園のベンチで話をすることになった。彩歌は昔は口数も少なく内向的だったが、大人になったからなのかゾンビ化の影響なのか、今はガラッと変わって人懐っこくて穏やかだった。ゾンビが人懐っこいってのはなんか複雑な気持ちになる琢磨だったが……。

琢磨(……変わったのは、外見だけじゃない。雰囲気も、心も……そもそもゾンビに心はあるのか?ってのは置いといて…なんだろう?このドキドキ感は……僕、惹かれているのか?)

彩歌「じゃあ琢磨くん、またね!ゾンビになったら知らせてね!」
琢磨「ああ、うん。また逢おうね」

彩歌と別れ、琢磨は始業にギリギリ間に合うように出社した。



琢磨は自分の席に座りパソコンを開くと、メッセージが届いていた。開いてみると……

『ナマミ社員の皆さまへ
ゾンビパッチテストの案内をお送りします。
Z-3申請の前段階となります。
任意の検査ですが、受検は推奨しています。
ゾンビになって、作業効率を高めましょう。
ゾンビ推進組合より』

琢磨「す、推進組合…・・」
ゾンビ女子社員「あ、私、それ受けてからすぐゾンビになったよ。楽だよ~」
琢磨「そうなんですか」
ナマミ男性社員「俺は、43%だったから、まだナマミやってる。なんか踏み切れなくてね」
琢磨(ナマミの人いたんだぁ)
琢磨「パッチテストのパーセンテージが低いとどうなるんですか?」
ゾンビ女子社員「簡単に言うと、低いとゾンビ化したら逆に朽ちるのが早くなるということかな。低くてもうまくいけば数百年いけるかもだけど、場合によってはナマミより寿命が短くなるかもしれない。ま、ナマミじゃないから“命”じゃないけどね~」
ナマミ男性社員「そこで俺は葛藤してて。でもナマミだとなかなかゾンビ社員においつけなくて悩んでる。君はパッチテストやった?」
琢磨「いえ、まだなんです」



ゾンビになるのも、数値による適合格差があり、人によっては選んだり、選ばなかったりするのである。琢磨はどうするか悩んだ。自分は適合するのか。そもそもゾンビになりたいのか。いろいろ考えていくうちに、彩歌の顔が浮かんだ。

琢磨(こんな時に彩歌が浮かぶなんて、俺好きになったのかなぁ)
ゾンビ女子社員「ねぇねぇ、琢磨君、私さぁ、この前彼氏とわかれちゃってさぁ、誰か良い人……いや良いゾンビいないか探しているんだけどいない?ナマミじゃなくてゾンビで」
琢磨「いやいませんけど。あれでも以前聞いたときは、めちゃイケメンで金持ちで結婚秒読みっていっていたじゃないですか」
ゾンビ女子社員「以前はね。でもその元カレ、ゾンビ適合が低すぎて、ナマミなんだよね。だから別れたの」
琢磨「ナマミとゾンビじゃ付き合えないんですか?……それもそうか」
ゾンビ女子社員「そりゃあそうでしょ…私はこの先、何百年も生きるんだよ?彼はナマミだからいずれはしわしわになってこの世からいなくなるし」
琢磨「そっか……あ、素朴な疑問なんだけど、ゾンビってスキンケア必要なんですか?」
ゾンビ女子社員「うん。してるよ。私が使っているのは“ゾンビーナ”っていう美容液。これ一本できれいなグレー肌をキープできて、半永久的に腐敗しないで済む。っていうか、これ自社製品だよ」
琢磨(え?うちの会社が作っているのか…)
琢磨「そ、そうですね」
ゾンビ女子社員「そそ」
琢磨「ってことは、ナマミがゾンビと恋愛することは無理?」
ゾンビ女子社員「それは、100パー無理だろうね」
琢磨(じゃあ、パッチテスト受けてみるか)



琢磨は早速パッチテストを受けにいった。テストは簡易診断で、肌に貼るだけで1分ほどで結果が出る。なぜだかその1分は、永遠のように感じられた。まるでゾンビになった後を仄めかすように。

琢磨(でも、こんな簡単なテストで適正がわかるのか……)

程なくして結果が出た。

『適合率:14%/ゾンビ化:非推奨』

ゾンビスタッフ「まぁ、無理にとは言いませんが……無理ですね(笑)」
琢磨「どうしても無理ですか?」
ゾンビスタッフ「あなたの場合は、ゾンビになると寿命もそうですが、身体能力や思考能力が低下し、ほとんど理性を保てなくなる可能性が非常に高いです。ナマミで頑張るのを推奨します」
琢磨「そうですか」

琢磨は、喜んで良いのか、悲しんで良いのかわからない感情が沸き起こり、それと同時に自分はゾンビ側に行けない存在だと思い知ったのだった。



琢磨は、その日の仕事終わりの帰り道、彩歌が恋人──いや、恋ゾンビと手を繋いで歩いているのを見かける。ふと視線が合い、彩歌が優しく微笑んだ。

恋ゾンビ男「彩歌、どうした?」
彩歌「ううん、なんでもない。いきましょ」

二ゾンビは琢磨とすれ違い、通り過ぎていく。彩歌が一度振り返り、琢磨の背中にもの悲しいまなざしを向けた。彩歌は、ほんの少しだけ迷っているように見えたが、その気持ちを振り払うように彼ゾンビをおいかけ、ゾンビが行きかう街に消えていった。

琢磨(あの笑顔は、きっともう、ナマミの僕にはむけられないんだ)

夕焼けの中、「ゾンビになる」という選択肢が消えたことを噛みしめ、琢磨は一人涙した。