朝起きたらゾンビばかりでした。でも、なぜか襲ってこないんです。そこで僕は名付けました──ファニエストゾンビ、と。


 琢磨は何とか始業に間に合って出社した。いつも通りの光景に見え…ない。
会社はそのまま、社員も同じだが、やはりほとんどの社員がゾンビなのだ。

ゾンビ部長「さぁさぁ、今日も休憩なしで、ガンガン働いていきましょう!ゾンビならできる!」
琢磨(なんだそりゃ?)
ゾンビ部長「おう、琢磨君……君はゾンビじゃないんだね?ナマミかぁ」
琢磨「ナ、ナマミ?」
ゾンビ部長「そんなことも知らんのかね。我々ゾンビに対し、君たち人間状態は”ナマミ“と言うのだよ。思わずかぶりつきたくなるがね。ははは」
琢磨「えええ?!やっぱりかぶりつかれるんだ……」
ゾンビ部長「ははは、大丈夫、大丈夫。希望届、いわゆる”Z-3自発的ゾンビ申請”がない限り、かぶりつきはしないから!」
琢磨(Z-3自発的ゾンビ申請?)
ゾンビ課長「ま、頑張って働き給え!希望届はいつでも待ってるよ!」



琢磨はいつものように仕事をし始めた。そして12時になった。いつもならみんな昼休みに入るはずだが、誰一人休憩する人……いやゾンビはいなかった。ナマミのものだけがごく少数、休憩し始めた。琢磨はコンビニに弁当を買いに行った。

ゾンビ店員「いらっしゃいませ」
琢磨「あの~弁当は売ってますか?」
ゾンビ店員「あ、ナマミのかたですね。あちらのコーナーがナマミ専用です」
琢磨「よ、よかった……」

琢磨は、から揚げ弁当を買って、会社に戻った。ゾンビ社員が休みなく働いている中だと食べにくいので、琢磨は屋上で食べることにした。半分くらい食べたくらいで、隣の席のゾンビ女子社員が琢磨に近寄ってきた。

ゾンビ女子社員「わぁ、咀嚼って懐かしい~!動画撮ってよい?」
琢磨「え?珍しくもなんともないと思うけど」
ゾンビ女子社員「今、ナマミ飯モッパンがゾンビ女子で流行っているのよ」
琢磨「なにそれ?」
ゾンビ女子社員「ゾンビだとどうしてもそんな咀嚼音が出ないのよねぇ。あ、それそれ、その音良い!」
琢磨「へ?どこが?」
ゾンビ女子社員「ナマミをやめたことに後悔があるとしたら、やっぱ咀嚼音よね!」
琢磨(そんなもんなのか)
ゾンビ女子社員「あ、そうそう、部長からの伝言を伝えに来たの。午後からの会議、議事録をよろしくって」
琢磨「あ、はい!」



午後からの会議が始まった。ゾンビたちは琢磨たち“ナマミ”は昼休み中も働きどおしだったが、会議始まってからも3時間ぶっ通しで議題を詰めていった。琢磨はボーっとしてしまい置いてけぼりをくった。

ゾンビ部長「ナマミ君、いや、琢磨君。今の内容、理解できた?」
琢磨「……あ、はい、えーっと、な、何となく」
ゾンビ部長「何となく?琢磨ぁ!!なんだぁ!!!その死んだような目は!ゾンビかぁ!」
琢磨「ひいい」
ゾンビ部長「琢磨君、せっかく全力でぼけたんだから突っ込まないと。“ゾンビに言われたくないわぁ!"とかさぁ」
琢磨「は、はい、すみません」
ゾンビ部長「頼むよぉ。今後気をつけるように。あと、議事録を提出しといてくれ。今のボケもふくめて」
琢磨「そ、そんなボケまで書くかぁ!」
ゾンビ部長「おお!その調子だよ!琢磨君」
琢磨(こんなんで良かったのか。でも、会議の半分以上がわけわからんかった。どうしよう)

会議後、隣のゾンビ女子社員から笑顔で声をかけられた。顔色はゾンビ色だが……。

ゾンビ女子社員「ナマミでも頑張ってて偉いね!」
琢磨(この励ましって、本当のやさしさなのか?ってかゾンビって人間を励ますのか?襲わないのか?今更だけど)
ゾンビ女子社員「あ、さっきのモッパンありがとうね!さっそくバズってるよ!“ナマミの男性社員に思わずかぶりつきたくなった!”ってコメントもついたよ!またよろしくね」
琢磨「え?ま、また……あはは、タ、タイミングがあえばで」
琢磨(なんか、麻痺してきたけど、この人も、部長もみんなゾンビなんだよね?)

何とかマラソンのような会議と強烈なボケを乗り越えた琢磨は、お手洗いに行く途中にトイレの壁に貼ってあるポスターに気づいた。

『ゾンビパッチテスト受付中!』
『ゾンビになって、もっと楽に。もっと明るく!』
『かぶりつきゾンビ化の前に、まずはパッチテストを!』

琢磨「なにこれ?……そういえば、トイレがあってよかった。ゾンビは排泄しなそうだし。でもトイレにこんなポスターが貼ってあるってことは、意味ありげだ。もし俺しかナマミがいなくなったら、トイレはなくならないだろうか……」



何とかその日の仕事が終わった。帰る途中、ゾンビが歌いながら歩いていたり、恋人同士、夜景を眺めていたりする光景を目の当たりにした。

琢磨「ゾンビでも、恋するんだ……」

琢磨は思わずそう口にした。

──みんな、明るい。ずっと笑ってる。でもそれって──本当に、幸せって言えるのかな。そう思いながら、琢磨は帰宅の途についた。