王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。

「もう朝陽先輩と何かすることはないのか……」

 昨日、ご飯の炊き方を教えた僕には、朝陽先輩と普段会う理由がなくなってしまった。
 お昼休みは悠人と食べているし、朝陽先輩は部活がないため、コロッケを食べに寄ることもない。
 明日からまた学校が始まるのに、どこかいつもと違って憂鬱に感じてしまう。
 そんなことを寝る前に考えていると、突然スマートフォンが鳴りだした。

「朝陽先輩……?」

 朝陽先輩から届いた1件のメッセージ。

『今日、母さんに親子丼を作ってみた!』

 早速、お母さんの仕事が休みの時に作ったのだろう。
 僕はどこか寂しく感じながらも、メッセージを返す。

『どうでしたか?』

 何て返ってくるのだろう。
 そう思ってドキドキしていると、すぐに既読がつく。
 ただ、しばらく待っても中々連絡が返ってこない。

「もう寝たのかな?」

 時計を見ると短い針が11を指していた。
 僕もスマートフォンを置き、目を閉じると再びスマートフォンが鳴った。

「やっぱり気になって寝れない!」

 体を起こし、スマートフォンを開けるとさっきの音は朝陽先輩からのメッセージだった。

『直接話したいから、明日のお昼一緒に食べない? お弁当はなくてもいいからさ』

 その言葉にドキッとしてしまう。
 少しだけ期待していたのがバレてしまったのかと思った。
 バイトが終わった後に、淡い期待を抱いて僕はスーパーでお弁当の材料を買っていた。
 ひょっとしたら、朝陽先輩から連絡があるかもしれないと。
 だけど、本当に誘われるとは思わなかった。

「お弁当はいらないのかな……」

 ただ、最後の一文が気になってしまった。
 朝陽先輩がお弁当はいらないって……。

『お弁当はいらないんですか?』

 僕は気になって聞いてみた。
 すると、スマートフォンが鳴った。

「えっ、電話!?」

 朝陽先輩から突然かかってきた電話に僕は驚いた。
 僕はゆっくりと応答ボタンを押す。

「はい、小川です」
「くくく、直ってそんな感じで電話に出るんだね」

 電話越しには笑う朝陽先輩の声が聞こえてきた。
 少し恥ずかしくなりながらも、電話越しに聞こえてくる朝陽先輩の声に少し胸が温かくなる。

「どうやって返事をしようかと悩んでたら、遅くなってごめんね」
「悩んで……?」
「うん。母さんに親子丼を作った時のことを直接言うか迷ってね」

 しばらく連絡が来なかったのは、朝陽先輩の中でどうやって伝えるのか悩んでいたからだった。
 でも、電話をしてきたってことは――。

「電話で伝えることにしたんですか?」

 せっかく明日会えるのかと思ったのに。

「明日会えないのか……」

 突然崖から落とされたみたいで憂鬱になってきた。

「いや、違う違う!」
「違う……?」
「電話をかけたのはお弁当についてだ。急に言ったら迷惑だと思ってさ」

 朝陽先輩の言葉に僕は嬉しくなった。
 急に言って負担にならないかと、考えてくれたようだ。
 お弁当を一つ増えても、そこまで変わらないって言ってるのに。

「僕は大丈夫ですよ」
「本当か!? 明日楽しみだな」

 朝陽先輩の嬉しそうな声に僕も嬉しくなる。
 やっぱり朝陽先輩は食いしん坊なんだね。
 その後も少しだけ電話をして、僕は眠りにつくことにした。


 待ちに待ったお昼休み。
 ここでも問題が残っていた。

「悠人、今日は朝陽先輩と食べてくる」
「なっ、俺を置いてくのか!?」

 しがみついてくる悠人にどうしようかと僕は悩む。
 試合が終わり、ミーティングをしばらくすることがなくなった悠人とは、また一緒にお昼ご飯を食べていた。
 だが、朝陽先輩とお弁当を食べるなら、悠人と食べるのは断らないといけない。
 まあ、別に断ることに関しては何とも思ってないけど、悠人もなぜか僕の弁当を狙っていたからな。

「っていうことだから行くね!」
「俺の卵焼き……」

 やっぱり僕よりもお弁当の心配をしていたようだ。
 リュックサックを背負って校舎裏に走る。
 久しぶりにお弁当を入れたから、また肩が凝りそうだ。
 だけど、今の僕の足取りは軽い。

「朝陽先輩!」

 校舎裏のベンチにいる朝陽先輩に僕は声をかける。
 振り向いた先輩はいつものように笑っていた。
 だけど、なぜか今日は少しだけ緊張しているように見えた。