王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。

 僕は緊張しながら、朝陽先輩の家の近くに向かった。
 毎日一緒にスーパーに行ってたのに、なぜこんなにドキドキするのだろう。

「悠人がデートって言うからだな……」

 あれから悠人は僕を見るたびにニヤニヤとしてくる。
 朝陽先輩と今日会うことを伝えると、なぜかデートだって言うし。
 そう言われると、嫌でも意識してしまう自分が恥ずかしくなる。
 きっと朝陽先輩はそんなこと思ってないと――。

「直、こっち!」
「あっ……こんにちは」

 スーパーに到着すると、すでに朝陽先輩は待っていた。
 私服姿の朝陽先輩を初めて見たが、どこか新鮮でかっこいい。

「直の服可愛いね」

 服のセンスがない僕は恥ずかしくなってくる。
 だって、今日も大きなクマが布団に包まって、〝冬眠中〟と書いてあるTシャツだ。

「朝陽先輩はかっこいいですよ」
「おっ……そうか」

 少し照れくさそうに朝陽先輩は頭を掻いた。
 また変わったTシャツを着てくるのかと思ったが、朝陽先輩は丈が短めのTシャツに太めのズボンを履いていた。

「僕だけ子どもっぱいですね……」
「そんなことないよ? 俺も母さんに止められて、この服にしたからね」

 どうやら朝陽先輩は仕事の準備をしていたお母さんに止められたらしい。
 むしろどんなTシャツを着ようとしていたのか気になる。

「じゃあ、買い物しようか」
「はい」

 僕たちは買い物かごを持ってスーパーの中に入っていく。
 だけど、普段は一緒に持っているかごを今日は朝陽先輩が一人で持っていた。

「僕も持ちますよ」
「あっ……うん」

 朝陽先輩は少し恥ずかしそうにカゴの持ち手を片方外した。
 それを僕は手に持って歩き出す。
 なぜかいつもと同じなのに、僕の鼓動は早くなり、自然と歩きも早くなる。

「くくく、今日は直が野菜嫌いみたいだね」
「えっ……」

 気づいたら僕は野菜も入れずに、お肉売り場に来ていた。

「あっ、すみません」
「普段と違う直が見れて楽しいよ」

 朝陽先輩の言葉一つ一つが僕の鼓動をさらに早くする。
 優しく微笑む朝陽先輩の顔も、なぜかチラッとしか見えないし。

「やっぱり持ってもらってもいいですか?」
「せっかくだから一緒に持とうよ。今日は直がどっかに行っちゃいそうだし」
「どこにも行きませんよ……」

 クスクスと笑う朝陽先輩に僕は俯きながら、スーパーの中を歩いていく。
 必要な材料を買わないといけないのに、今はそれどころじゃないね。

「えーっと、材料はこの前と同じでいいんだよね」

 そんな僕を引っ張るかのように、朝陽先輩はこの間買ったものを思い出して、かごの中に入れていく。
 気づいた頃には全てかごに入れ終わり、レジの前まで来ていた。

「今日の僕使い物にならなさそうですね」
「そう? 俺は一緒にいるだけで楽しいけどね」

 サラッと恥ずかしいことを言う朝陽先輩に僕は顔を上げられないでいた。
 こうやって他の女の子にも言っているのかな?
 だけど、そう思うと胸が苦しくなってくる。

「直、本当に大丈夫? 体調悪いならまた別の日に――」
「いえ、大丈夫です。僕も一緒にいたいので……」
「あっ……そうだね」

 何か話すわけでもなく、ただ隣で一緒に歩きながら朝陽先輩の家に向かう。
 しばらくすると、アパートが見えてきた。

「もう母さんは仕事に行ってるから、気楽に何時までいてもいいからね」

 そう言って、朝陽先輩は玄関を開けて、スリッパを用意してくれた。
 朝陽先輩の家に来るのは2回目なのに、なぜか前回よりも緊張するのは気のせいだろうか。

「おじゃまします」

 僕は靴を脱ぐと、前回同様に仏壇の前に座って手を合わせた。

「じゃあ、ご飯の炊き方――」

 振り返ると、嬉しそうに朝陽先輩は笑っていた。
 そんなにご飯の炊き方が知りたかったのかな?
 僕は気合いを入れて、ご飯の炊き方を教えていく。
 って言っても精米を洗って、書いてあるメモリまで水を入れるだけだ。

「炊飯器は浸水時間も含めて設定されているけど、冬は少し寒いから水に浸けてから炊いたほうが美味しいかな」
「直は何でも知ってるね」
「もう長いこと料理を作ってますからね」

 少し褒められただけでも嬉しい。

「じゃあ、他は俺が作るから、何かあったら呼ぶね」
「本当に大丈夫ですか?」
「たぶん大丈夫! 直は好きなようにくつろいでいて」

 今日は事前練習ってことで、ご飯を炊くこと以外は朝陽先輩が作ることになっている。
 僕はその間、朝陽先輩の部屋で待つことになった。

「本当にバスケが好きなんだ……」

 朝陽先輩の部屋にはバスケに関するものがいくつも並べられて置いてあった。
 バスケットボールやシューズだけではなく、バスケの雑誌や筋トレの本。

「あっ、朝陽先輩のお父さんかな?」

 壁には朝陽先輩のお父さんがユニフォームを着て、バスケをしている写真が飾ってあった。
 ユニフォームには有名なプロバスケットチームの名前が書かれていた。

「朝陽先輩のお父さんは有名人なのか……」

 朝陽先輩が有名なのは、お父さんの影響もあったのかもしれない。
 朝陽先輩の家族のことはまだまだ知らないことばかりだ。

「何しよう……」

 朝陽先輩の部屋に一人でいると、なんだか落ち着かない。
 普段なら気にならないものまで目に入ってしまい、どこを見ていればいいのかわからなくなる。
 部屋の中をソワソワして歩くのもおかしな人だと思われちゃうし……。
 僕はそのままベッドの近くに腰を下ろし、朝陽先輩が料理を終えるのを待つことにした。