王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。

 僕はいつも通りにお弁当を作って、学校へ向かう。
 一昨日の試合から朝陽先輩に連絡は送っているものの、メッセージは返ってこない。
 どうやって声をかければいいのかもわからず、朝陽先輩から返事を待っていた。

「静かだな……」

 学校に到着するが、普段と様子が違うことに気づいた。
 自転車置き場にもバスケ部を応援する声が聞こえてきたが、今日はボールを突く音とバスケットシューズが擦れる高い音だけが聞こえてくる。

「あっ……朝陽先輩は引退したのか……」

 公式試合に負けたことで、朝陽先輩たち3年生は部活を引退したのだろう。
 いつもは朝から応援していた人たちは誰もいなかった。

「男子バスケ部負けたらしいぞ」
「そうか。2年は悠人が出ていたらしいから、あまり話には触れない方がいいか」
「来年あったとしても辛いからな……」

 教室に着くと、バスケ部の試合について話すクラスメイトたちがいた。
 このクラスにも悠人を含めてバスケ部員が多いため、少し顔を合わせにくいな。
 そう思っていると、次々と朝練を終えた生徒たちが教室に入ってきた。

「直、汗拭きシートくれ!」
「あっ、おは……悠人!?」
「ははは、すげぇだろ!」

 そこには髪の毛を切って、坊主になっている悠人がいた。
 前も短髪ではあったけど、今まで長年一緒にいてボウズになったところは見たことない。

「気合いを入れるためにボウズにしたんだ」
「そっか……。この間の試合残念だったね」
「ああ。直も応援に来てたんだろ? ありがとな!」

 そう言って、僕の手から汗拭きシートを奪うと体を拭いていく。

「あっ、せっかくだから頭触るか?」

 頭を差し出す悠人に僕は強く手を置く。

「来年は全国だな!」
「ああ、また応援してくれ!」

 きっと辛いのは悠人や朝陽先輩たちだ。
 僕は何事もなく、いつものように接すればいいだけだ。

「そういえば、ミーティングはしばらくしないから、今日から一緒に昼飯食おうぜ!」
「あっ……」
「何かあったのか?」
「また昼にどうするか決めてもいい?」
「あー、いいぞ」

 そう言って、悠人は自分の席に戻った。
 いつものように朝陽先輩とお弁当を食べると思って、大きなお弁当を持ってきている。
 ただ、昨日も朝陽先輩にはお弁当のメニューについて連絡をしたけど、既読はついても返事がなかった。

『お昼休みは一緒に食べますか?』

 僕はその場で朝陽先輩に連絡を送った。


 少し朝陽先輩が気になっていたが、授業が始まれば自然と時間が経っていた。

「直、どうする?」
「あっ、明日からでもいいかな?」
「そうか! 俺はバスケ部のやつらと食べるから構わんよ!」

 僕はお弁当が入ったリュックをそのまま持ち出して、いつものように校舎裏に向かう。

「そういえば、あいつ今までどこで飯を食べてたんだ?」

 悠人の声は急いでいる僕には薄らとしか聞こえなかった。


「朝陽先輩……」

 校舎裏に向かうと朝陽先輩の姿はなかった。
 メッセージを確認すると、既読にはなっているが返事はない。
 いつもは何かあればすぐに返ってくるのに、連絡一つも返ってこないから心配になってくる。
 一人で校舎裏のベンチで朝陽先輩が来るかもしれないと座って待つことにした。

「直、こんなところで――」
「朝陽先輩……悠人?」

 声が聞こえたと思い立ち上がると、そこには心配そうな顔をした悠人がいた。

「こんなところで何してるんだ?」
「あっ……いや……」
「それに今朝陽先輩って言ったよな? 王子先輩を待ってるのか?」

 悠人の言葉に僕は頷く。

「悠人がミーティングするようになって、ここで朝陽先輩とお昼ご飯を食べていたんだ」

 僕がリュックからお弁当を取り出すと、悠人は下唇を強く噛んだ。

「ちょっと王子先輩のところに行ってくる」
「大丈夫!」

 僕はそんな悠人をすぐに止める。

「連絡はしてあるから……」
「そうなのか?」
「うん。既読はついてるからね。朝陽先輩も試合に負けて、まだ本調子じゃないんだよ」
「あぁ……そうかもしれないな」

 悠人はベンチに座ると、僕のお弁当を奪い取り蓋を開けた。

「毎回こんなに作ってたのか?」
「朝陽先輩が美味しいって言ってたからね」
「そっか……」

 大きなため息をつくと、悠人は唐揚げを一つ食べる。

「相変わらず直の飯は美味いよな。だけど、箸が一つしかないけど?」
「あー、僕が食べさせ……」

 僕は言う前に手で口を塞いだ。
 悠人は驚いた顔をした瞬間、すぐにニヤリと笑った。

「いつから王子先輩と付き合ってるんだ?」
「……ん? 付き合う?」
「えっ? 付き合ってるんじゃないのか?」
「いや? ただ一緒にご飯を食べる仲だよ?」

 僕は首を傾げるが、悠人は足をガタガタとさせて苛立ちを隠せないようだ。
 なぜ僕と朝陽先輩が付き合ってることになるのか、僕にはわからない。
 ただ、朝陽先輩を応援するためにお弁当を作っていただけだし……。
 でも、それももう無くなってしまった。

「あー、もうお前ら鈍感過ぎてイライラする」

 そう言って、悠人はお弁当をかき込んでいく。
 僕のどこが鈍感なんだろう?

「あっ、僕の分まで食べないでよ!」
「そんなの知らねーよ!」

 自分の分のお弁当が食べられることに気づくぐらいだから、鈍感じゃないよね?