夕方になっても、汗がじっとりと肌に貼りつくような暑さだった。
外は、うるさいくらいの蝉の声がずっと鳴りっぱなし。
照り返しでアスファルトは白くかすんでいて、黒い喪服の人たちが汗拭きながら早足で玄関くぐっていく。
自動ドアが開くたびに、むわっとした熱気が入ってきて、また静かに閉まる。
受付では香典袋渡す人、深々と頭下げる遺族、案内するスタッフの小さい声。
「このたびは、ご愁傷さまです」
同じセリフが、何回も、何回も繰り返されている。
白い花に囲まれた祭壇の中央では、制服姿の親友――穂高が笑っていた。
昨日までと変わらない、いつもの笑顔で。
「――しずる」
低い声にふと顔上げる。そこに立っていたのは、いつもの支配人モードの顔やない、ただのおとんの顔やった。
「おまえ、顔真っ青やぞ。ちょっと休め」
「まだ仕事あるし……」
反射的に出た声、自分でもびっくりするくらい掠れとった。
おとんは何も言わずに、俺の背中にぽんっと手を置く。
「無理すんな。奥の控室、空けとるから」
有無を言わせない声。逆らう元気もなく、俺は式場の脇を歩いた。
時折、参列者の話し声がぽつぽつと耳に入ってくる。
「ほら、あの子、息子さんやろ?御影さんとこの。確か、しずるくん」
「ああ、この葬儀屋の。色白いなぁ、ほんまに」
「顔立ちは整っとるのに、なんかこう……薄いよなぁ。幽霊みたいってよう言われとったやん」
ああ、またか。いつものやつ。
「親友が亡くなるなんて縁起悪いよなぁ」
「シーッ、聞こえるって」
――聞こえとるっちゅうねん。
小さい頃から、ずっとこうやった。
俺、御影しずるは、葬儀屋の息子ってだけで「死」を運んでくる存在みたいに見られる。
色が白いのも、体が小さいのも、全部まとめて「不気味」の材料にされる。
いつもなら聞き流せる言葉が、今日はやけに重く胸に刺さった。
式場の奥からは読経が響き、波みたいにゆっくり会場を満たしていく。
鼻をくすぐるのは祭壇を飾る白い菊と線香が混ざった、甘くて苦い匂い。
――ここだけ、時間が止まっとるみたいや。
ふと、そう思った。
控室は、式場の喧騒が嘘みたいに静かで古い畳にかすかに線香の匂いが混じっている。
座布団に腰下ろした瞬間、どっと疲れが出て俺は壁に背中を預けた。
親友の訃報を聞いたのは二日前。
その日の夜、スマホが鳴った。
画面に浮かんだ「雪代穂高」の文字に、別になんとも思わんかった。
いつもみたいに、しょうもない話でもしてくんねやろって思っとった。
でも出たのは、穂高のお母さんで。
「ほ、ほだかが、事故に遭って……で、今病院に……」
そこから先、何を言われたんか全然覚えてない。



