「思い出しました……私、幼かったあの時はおじいちゃんに甘えていたかったんです。子どものように無邪気で、私に美術の世界を教えてくれたおじいちゃんが、一番好きなんだって言ってたこの場所に連れて来てもらって、嬉しくて……でも、やっぱりどこかで萎縮しちゃってて……おじいちゃんが絵を描いている間暇だった私は、それを眺めたり、時に散歩したりと動きまわって、疲れて、休みたくなって、それで……私は、おじいちゃんの膝に眠りついていました」
「ええ」
「そっか……そうやったんや……おじいちゃん、無理せんでええとか言っとったくせに、ほんとは嬉しかったんやんか……」
震える声で、善利さんは笑いながら言った。
どこか清々しいような、そんな表情で。
「――善利さん、私にも教えてくれる?」
静かに尋ねると、善利さんは小さく頷いた。
「は、はい……」
「あら雫さん、今度は貴女がお膝に来ますか?」
「ちゃいますよ…! 写真見せてって言ってるだけやから!」
「あらあら、ふふっ」
悪戯に笑うクリスさんは放っておいて、私は善利さんから渡されたスマホの画面を見つめた。
そこには、確かに写真と同じ黒い靄が――ちゃんと二つ、丸い何かが映っていた。
「そっか、膝だったんだ」
善利さんがコクリと頷いた。
「でも、どうしてこうだって……クリスさん?」
「ええ。一つずつ解説致しますね。善利さん、悪いけれど、一度起きて頂いても構いませんか?」
「すっ、すみません、私ずっと…!」
我に返った善利さんは、慌てて飛び起きて背筋を伸ばした。
あらあら。そう言ってクリスさんがふわりと笑う。
「まず、当時おじい様は絵を描いていたということ、そしてそのおじい様の写真を見せて頂いたことから、後ろから撮られたものではないことは確かです」
「どうしてですか?」
「おじい様がどのような出で立ちだったか、思い出してみてください」
「出で立ち……そっか、白髪だからか」
クリスさんが頷いた。
そう。おじいさんは白髪だった。だから、後ろから撮られた写真でないことは明らか。
肩口から風景が見えるようにするなら映らないかもしれないけれど、それだとそこまでして肩から撮る理由の方が分からない。何より、おじいさんが大切にしたい気持ちの在処もあやふやだ。
「前からだと、何らかの理由で自分の膝が映ることはあっても、それならおじい様が大事に取っておく理由にはなりません」
「なるほど。でも、どうしておじいさんの膝に寝ていたと?」
「自分の膝に置いてスマホからカメラを構えることなど、まずあり得る話ではありません。それでも膝に置いたとして、画面を確認しつつ撮ったのであれば、カメラは自然ともっと下の方へと向いている筈ですから。手振れがないようにしたいのであれば、もっと違った方法を撮りそうなものです。逆にそうまでして撮るなら対象は風景でしょうから、まず選択肢に上がりません」
「膝じゃなくて、例えば指とかが映り込んだ可能性は?」
「まずないでしょう。つゆさん、レンズを隠してカメラを構えてみてください」
私は言われた通りにカメラを起動し、レンズを指で隠した。
すると、全部隠しても一部だけ隠しても、はっきりと『肌色』は映っていることが分かってしまった。
「えぇ、真っ暗にならないようになってるんだ」
「ええ。スマホならレンズを護る為のキャップもありませんし、まず真っ暗になるということもない。後は目線の高さ、そんな状況で映り込みそうなもの、そしておじい様が大事にしまっていた、等の点から、この結論に辿り着いたという訳です。勿論確証はありませんし、これが百パーセントの答えかどうかは分かりませんでした。けれど――善利さんの反応を見れば、少なくとも間違っていた訳ではなさそうですね」
「な、なるほど……」
「そもそも、デジカメですと、横になった態勢からはとても撮りにくいですから。ボタンの位置を考えると、横になった体勢で横長の写真を撮ろうとすると、不自然な構えになってしまいます。対してスマホなら、画面を触るだけなので、寝たままでも簡単ですよね」
「それで、おじいさんの膝に、子どもの好奇心からスマホを持っていた善利さんが寝ていた、と……」
「ええ。膝の色が黒かったのは、きっと黒いズボンを履いていたから。私の推論は、以上になります」
クリスさんは微笑んだまま目を閉じた。
そっか。そういうことだったんだ。
「ええ」
「そっか……そうやったんや……おじいちゃん、無理せんでええとか言っとったくせに、ほんとは嬉しかったんやんか……」
震える声で、善利さんは笑いながら言った。
どこか清々しいような、そんな表情で。
「――善利さん、私にも教えてくれる?」
静かに尋ねると、善利さんは小さく頷いた。
「は、はい……」
「あら雫さん、今度は貴女がお膝に来ますか?」
「ちゃいますよ…! 写真見せてって言ってるだけやから!」
「あらあら、ふふっ」
悪戯に笑うクリスさんは放っておいて、私は善利さんから渡されたスマホの画面を見つめた。
そこには、確かに写真と同じ黒い靄が――ちゃんと二つ、丸い何かが映っていた。
「そっか、膝だったんだ」
善利さんがコクリと頷いた。
「でも、どうしてこうだって……クリスさん?」
「ええ。一つずつ解説致しますね。善利さん、悪いけれど、一度起きて頂いても構いませんか?」
「すっ、すみません、私ずっと…!」
我に返った善利さんは、慌てて飛び起きて背筋を伸ばした。
あらあら。そう言ってクリスさんがふわりと笑う。
「まず、当時おじい様は絵を描いていたということ、そしてそのおじい様の写真を見せて頂いたことから、後ろから撮られたものではないことは確かです」
「どうしてですか?」
「おじい様がどのような出で立ちだったか、思い出してみてください」
「出で立ち……そっか、白髪だからか」
クリスさんが頷いた。
そう。おじいさんは白髪だった。だから、後ろから撮られた写真でないことは明らか。
肩口から風景が見えるようにするなら映らないかもしれないけれど、それだとそこまでして肩から撮る理由の方が分からない。何より、おじいさんが大切にしたい気持ちの在処もあやふやだ。
「前からだと、何らかの理由で自分の膝が映ることはあっても、それならおじい様が大事に取っておく理由にはなりません」
「なるほど。でも、どうしておじいさんの膝に寝ていたと?」
「自分の膝に置いてスマホからカメラを構えることなど、まずあり得る話ではありません。それでも膝に置いたとして、画面を確認しつつ撮ったのであれば、カメラは自然ともっと下の方へと向いている筈ですから。手振れがないようにしたいのであれば、もっと違った方法を撮りそうなものです。逆にそうまでして撮るなら対象は風景でしょうから、まず選択肢に上がりません」
「膝じゃなくて、例えば指とかが映り込んだ可能性は?」
「まずないでしょう。つゆさん、レンズを隠してカメラを構えてみてください」
私は言われた通りにカメラを起動し、レンズを指で隠した。
すると、全部隠しても一部だけ隠しても、はっきりと『肌色』は映っていることが分かってしまった。
「えぇ、真っ暗にならないようになってるんだ」
「ええ。スマホならレンズを護る為のキャップもありませんし、まず真っ暗になるということもない。後は目線の高さ、そんな状況で映り込みそうなもの、そしておじい様が大事にしまっていた、等の点から、この結論に辿り着いたという訳です。勿論確証はありませんし、これが百パーセントの答えかどうかは分かりませんでした。けれど――善利さんの反応を見れば、少なくとも間違っていた訳ではなさそうですね」
「な、なるほど……」
「そもそも、デジカメですと、横になった態勢からはとても撮りにくいですから。ボタンの位置を考えると、横になった体勢で横長の写真を撮ろうとすると、不自然な構えになってしまいます。対してスマホなら、画面を触るだけなので、寝たままでも簡単ですよね」
「それで、おじいさんの膝に、子どもの好奇心からスマホを持っていた善利さんが寝ていた、と……」
「ええ。膝の色が黒かったのは、きっと黒いズボンを履いていたから。私の推論は、以上になります」
クリスさんは微笑んだまま目を閉じた。
そっか。そういうことだったんだ。



