拝啓、嘘で結ばれた君へ

「……俺、昔テニスやってたんだ」
 帰り道。
 彼は突然、そんなことを話し始めた。
「でも、辞めた。全部嫌になって」
 聞かないといけない。
 きっと、勇気を出して話してくれているのだから。
 でも……。
 ――私に、そんな資格があるの……?
「俺には、弟がいる。(けい)っていうんだけど」
 きっと、さっき考えていたことを話してくれている。
 (こう)の顔が見れない。
「俺、テニスが好きだった。勝てたら嬉しかったし、負けたら『もっと練習頑張ろう』って思ってた」
 どこか遠い目をしている。
「でも……でもさ。俺には、才能がなかったんだ。俺より後から始めた(けい)に、すぐに追い抜かされた」
 うるんでいる瞳。
(けい)とは、比べられてばかりだった。勉強も、運動も、……テニスも」
 震えている声。
「……嫌になったんだ、テニスが。嫌いになった。(けい)と比べられたものは全部嫌いだ。勉強も、テニスも、ピアノも、習字も」
 一筋の涙が流れる。
「……なんか、情けなくなった。真剣にテニスしてるやつのこと見たら。……俺は、なんて弱いんだろう、って…………」
 君に、私はなんて言えば良い……?
「ごめん、なんか……。こんなの、俺じゃないよな」
「…………弱くなんてないよ」
梛乃(なぎの)……?」
(こう)は、弱くなんてないよ。誰だって、比べられ続けたら、嫌になるよ。……私も、辛い時があったから」
 お姉ちゃんはなんでもできた。
 勉強も、運動も。
 しかも、可愛くて、優しくて、明るくて。

梨那(りな)さんは、あんなに良い人なのに、なんで梛乃(なぎの)は空気読めないの……?』

 私はずっと、お姉ちゃんはお姉ちゃん、私は私、と思っていた。
 でも、さすがに傷つく時もある。

梨那(りな)ちゃんを見習って、頑張るのよ』

 いつだったか、親戚の人にそう言われた。
 苦しかった。
 辛かった。
 ただ、そんな思いだけが胸に残っている。
「……(こう)(こう)だよ。比べちゃダメ」
梛乃(なぎの)……。……ありがとう」