17歳の夏、枯れない向日葵を君と植える

あの夕方の教室で、蓮に冷酷な言葉を投げつけてから、世界から色が消えてしまったようだった。
九月になり、新学期が始まっても、私と蓮の間には目に見えない厚い壁が横たわっていた。
教室で目が合いそうになると、私は反射的に視線を逸らした。
蓮は最初のうち、何度か私に話しかけようと近づいてきてくれたけれど、そのたびに私が怯えたように距離を取るものだから、やがて悲しげな瞳で行き過ぎるようになった。
クラスメイトたちは、文化祭や体育祭の準備で大忙しだった。

「長谷川と一緒にいられる最後の行事だから、最高の思い出にしようぜ!」

そんな声が聞こえるたびに、私の胸は鋭利な刃物で抉られるように痛んだ。

みんなはすごいな、と思った。

十二月に蓮がいなくなると分かっていて、どうしてそんなに全力で笑い合えるのだろう。
別れの日に、どれほど大きな喪失感が襲ってくるか、本当に想像できていないのだろうか。
それとも、想像した上で、それでも今を大切にできるほど強いのだろうか。

私には、どうしてもそれができなかった。

蓮の笑顔を見るたびに、脳内で「あと三ヶ月」「あと二ヶ月」と、無慈悲なカウントダウンの数字が点滅する。
その数字が小さくなればなるほど、私の心は恐怖で身をすくませ、さらに強固な殻へと閉じこもっていった。

十月が過ぎ、十一月になり、街を流れる風が肌を刺すような冷たさを帯び始めた頃。
ついに、その日がやってきた。

「長谷川、本当に来週の金曜日には発っちゃうんだな……」

放課後の教室で、男子たちが蓮の机を囲んで沈痛な面持ちで話していた。
来週。
あと、たったの七日。
私はカバンに教科書を詰め込む指先が、ガタガタと震えるのを止められなかった。
限界だった。これ以上、この場所にいたら、自分がどうにかなってしまいそうだった。私は逃げるように教室を飛び出した。

もう、あの河川敷には行っていない。夏休みが終わってから、一度も。それなのに、私の足は、吸い寄せられるようにあの坂道へと自転車を向かわせていた。冷たい冬の風が髪をなびかせる。
堤防の上に自転車を止めると、見慣れた景色が広がっていた。
緑色だった芝生はすっかり枯れて茶色くなり、空は夏よりもずっと高く、澄んだ青色をしている。そして、西の空からは、胸が苦しくなるほど美しい夕暮れの光が街をオレンジ色に染め上げていた。

「……やっぱり、来ちゃうんだな」

自嘲気味につぶやき、私は堤防の斜面に腰を下ろした。
膝を抱え込み、冷たくなった風を頬に受けながら、目を閉じる。目を閉じると、浮かんでくるのは蓮の言葉ばかりだった。

『今ここで神崎さんとこうして話している時間は、俺にとってひまわりが満開に咲いてるのと同じなんだ』

「嘘つき……。枯れたら、こんなに寂しくて痛いじゃない……」

ぽつりと言葉をこぼした、その時だった。

「嘘じゃないよ」

背後から聞こえた聞き慣れた声に、私の心臓が爆発しそうなほど大きく跳ね上がった。
慌てて振り返ると、そこには息を荒くした蓮が立っていた。制服のブレザーのポケットに手を突っ込み、マフラーもせずに、走ってきたのか額に薄っすらと汗を浮かべている。

「長谷川、くん……? なんで……」
「神崎さんの自転車が坂の上に見えたから。……今回は、確信を持って走ってきた」

蓮はそう言うと、夏休みのあの日とまったく同じように、私の隣にドサリと腰を下ろした。
だけど、その距離はあの時よりも少しだけ遠く、お互いの間に流れる冬の空気が冷たく張り詰めていた。

「……来ないでって、言ったはずだよ」

私は声を震わせながら、顔を膝に埋めた。

「私、長谷川くんにひどいこと言った。暇つぶしだったって、ただの自己満足だって、そうやって傷つけたのに……なんでまだ、私に関わろうとするの?」
「神崎さんが言ったこと、最初はすごくショックだったよ」

蓮は静かに、でもしっかりと語りかけるように言った。

「だけど、ずっと考えてたんだ。神崎さんがどうしてあんなに怒ったのか。どうしてあんなに悲しそうな顔をしてたのか。……分かったんだ。神崎さんは、俺のことが嫌いだから突き放したんじゃない。俺がいなくなるのが、怖かったんだよね?」

頭を殴られたような衝撃だった。
私は顔を上げ、目を見開いて蓮を見た。彼の真っ直ぐな瞳が、私の心の一番奥に隠していた卑怯な本音を、容赦なく見透かしていた。

「傷つくのが、怖い。終わりが来るなら、最初から何もいらない。それが神崎さんのルールなんだよね。……でもね、俺はやっぱり、それは違うと思うんだ」

蓮はポケットから手を出すと、私の目の前に差し出した。
その手のひらは、寒さのせいで少し赤くなっていたけれど、とても大きくて、あたたかそうだった。

「俺、神崎さんが好きなんだ」

夕暮れの街に、彼の声が響いた。
風の音も、遠くの電車の音も、すべてが消え去ったかのように、その言葉だけが私の鼓動を激しく打ち鳴らす。

「出会ったときから、ずっと君のことが気になってた。静かで、一人でいて、でも時々すごく優しい目をすること。ここで一緒に話して、初めて笑ってくれたとき、本当に嬉しかった。来週、俺は日本を離れる。もう簡単には会えなくなる。それは変えられない事実だけど……それでも、俺は神崎さんが好きだ」

「な、に言ってるの……っ」

私の目から、堪えていた涙がポロポロと溢れ落ちた。

「バカじゃないの!? 来週いなくなるのに、今そんなこと言ってどうするの!? 付き合って、一週間でバイバイするの? そんなの、ただの悲劇じゃない! 私は、長谷川くんが向こうに行ってから、毎日一人で泣くことになるんだよ!? そんなの……そんなの、絶対に嫌!!」

私は叫んでいた。胸の奥に溜め込んでいたドロドロとした感情が、涙と一緒に溢れ出して止まらない。

「そうだよ、私は怖いよ! あなたを好きになるのが怖かった! いなくなった後、この河川敷に一人で来るのが怖かった! だから、最初からいらないって決めてたのに……なんで、私の心をめちゃくちゃにするのよ……!」

私の怒りと悲しみの叫びを、蓮は遮ることなく、すべて受け止めるように静かに聞いていた。
そして、私の涙が少しだけ落ち着いた頃、彼は切なく、でも世界で一番愛おしそうな微笑みを浮かべた。

「うん。めちゃくちゃにして、ごめん」

蓮はそっと、私の肩に手を置いた。
その手のあたたかさが、ブレザー越しに伝わってきて、私はそれ以上彼を拒絶することができなかった。

「大泣きさせて、傷つける未来が分かっていて、こんなこと言うのは本当に俺の我が儘だと思う。だけどね、神崎さん。終わりが来るからって、この気持ちを伝えないままいなくなるなんて、俺にはどうしてもできなかった」

蓮は私の目をじっと見つめ、一文字一文字を刻み込むように言った。

「傷つくのを恐れて、ゼロのままで終わるのが、本当に神崎さんの『正しい選択』なの? たとえ一週間でも、たとえその後でたくさん泣くことになっても、俺と過ごした時間が一ミリでも君の人生に残るなら……それは『無駄』なんかじゃないって、俺が証明してみせるから」
「あ……」
「俺の気持ちは伝えた。来週の出発の日、空港に行く前に、もう一度だけここに来る。神崎さんの『正解』を、聞かせてほしい」

蓮はそう言うと、優しく私の頭を一度だけ撫で、立ち上がった。
夕日の光を背中に浴びた彼のシルエットが、ゆっくりと坂道を登っていく。
一人残された河川敷で、私はただ、声を上げて泣き続けた。

胸の中で、私が十七年間頑なに守ってきた「傷つかないための正しい選択」という名の防壁が、音を立てて激しく崩壊していくのが分かった。

痛い。
苦しい。
怖い。

だけど、それと同じくらい、私の心は蓮のあたたかい言葉で満たされてしまっていた。
タイムリミットまで、あと七日。
私は、私の人生で一番重い「問い」を突きつけられていた。