「こちらへ。ヴェールの形を今一度、整えさせていただきますね」
信子さんがそっと背後に寄り添い、優しく私の背へ手を伸ばす。
頭上の透明な布が、肩から背へまっすぐ美しい放物線を描いて落ちるよう、慈しむように丁寧に撫で整えられた。
背中を通り抜ける信子さんの指先が、少しくすぐったい。
こんなに美しい衣を纏い、高貴な指輪を授かり。
そして今、この一瞬の私の姿が紙の上に永久に焼きつけられて残されるのだ。
もし、これがすべて残酷な夢だったら。
目が覚めたら、また冷たい蔵の床に寝転んでいたら——。
幸せであればあるほど、臆病な考えが頭を掠めてしまう。
「妃殿下、そのまま少しだけ顎を上げてください」
「……は、はひっ」
呼ばれ慣れない言葉に、声が裏返ってしまった。
「くくくっ……緊張しなくても大丈夫だ」
「……はい……」
恥ずかしくて頬が熱いのに、ヴェールのせいで表情を隠せるのが、なぜだか救いだった。
指示に従って顔を上げると、ヴェール越しの空気がふわりと揺れた。
『妃殿下』と呼ばれ、自分が誰の隣に立っているのかを突きつけられるたびに、心臓が激しく跳ねる。
「殿下、もう一歩だけ妃殿下に寄ってください。肩を触れ合わせるように」
「ああ。これくらいだろうか」
暁臣様がさらに一歩、私の内側へ踏み込んでくる。
微かに触れるほどの気配だけで、胸が焼け付くように熱くなる。
衣装のせいで肩が触れそうで触れない、もどかしい距離。
けれど下ろした指先だけは、彼の手によって確かに力強く重ねられていた。
私の震えを、上から押さえるように。
写真師の方が、大きなカメラの後ろで黒い布を頭からすっぽりとかぶる。
カチ、カチ、とレンズの焦点を調整する金属音。
その音が、やけに心臓の鼓動に似て聞こえた。
「では——お二人とも、こちらを真っすぐご覧ください」
合図に合わせて、ぎこちなく足を動かし向きを整える。
慣れないハイヒールの不安定さが怖くて、ドレスの裾を踏まないか気がかりで、呼吸が浅くなっていく。
「奥様、目線は少しだけ前へ。顎を引きすぎず、はい、そのまま……では、撮ります!」
信子さんがそっと背後に寄り添い、優しく私の背へ手を伸ばす。
頭上の透明な布が、肩から背へまっすぐ美しい放物線を描いて落ちるよう、慈しむように丁寧に撫で整えられた。
背中を通り抜ける信子さんの指先が、少しくすぐったい。
こんなに美しい衣を纏い、高貴な指輪を授かり。
そして今、この一瞬の私の姿が紙の上に永久に焼きつけられて残されるのだ。
もし、これがすべて残酷な夢だったら。
目が覚めたら、また冷たい蔵の床に寝転んでいたら——。
幸せであればあるほど、臆病な考えが頭を掠めてしまう。
「妃殿下、そのまま少しだけ顎を上げてください」
「……は、はひっ」
呼ばれ慣れない言葉に、声が裏返ってしまった。
「くくくっ……緊張しなくても大丈夫だ」
「……はい……」
恥ずかしくて頬が熱いのに、ヴェールのせいで表情を隠せるのが、なぜだか救いだった。
指示に従って顔を上げると、ヴェール越しの空気がふわりと揺れた。
『妃殿下』と呼ばれ、自分が誰の隣に立っているのかを突きつけられるたびに、心臓が激しく跳ねる。
「殿下、もう一歩だけ妃殿下に寄ってください。肩を触れ合わせるように」
「ああ。これくらいだろうか」
暁臣様がさらに一歩、私の内側へ踏み込んでくる。
微かに触れるほどの気配だけで、胸が焼け付くように熱くなる。
衣装のせいで肩が触れそうで触れない、もどかしい距離。
けれど下ろした指先だけは、彼の手によって確かに力強く重ねられていた。
私の震えを、上から押さえるように。
写真師の方が、大きなカメラの後ろで黒い布を頭からすっぽりとかぶる。
カチ、カチ、とレンズの焦点を調整する金属音。
その音が、やけに心臓の鼓動に似て聞こえた。
「では——お二人とも、こちらを真っすぐご覧ください」
合図に合わせて、ぎこちなく足を動かし向きを整える。
慣れないハイヒールの不安定さが怖くて、ドレスの裾を踏まないか気がかりで、呼吸が浅くなっていく。
「奥様、目線は少しだけ前へ。顎を引きすぎず、はい、そのまま……では、撮ります!」



