初めて足を通した、踵の高いハイヒールの靴。
「わ……っ、あ……」
おそるおそる立ち上がると、見慣れたはずの自分の部屋なのに、視界がいつもより数センチだけ高く、別世界のように感じられた。
床が遠い。身体がふらつく。
重心が定まらず、一歩を踏み出すことさえ躊躇われる。
信子さんにそっと手を引かれ、やっとのことで右足を踏み出しても、慣れない高さに膝ががくがくと震えてぐらついてしまう。
転べない。裾を汚せない。そう思うほど、余計に足が固まる。
ドレスの裾を汚さぬよう細心の注意を払いながら、一歩一歩、感触を確かめるようにして、暁臣様が待つホールへと向かった。
階段の踊り場を曲がった先。
階下で私を待っていた暁臣様の姿を目にした瞬間、再び呼吸を忘れてしまう。
いつも仕事で着ていらっしゃる落ち着いたスーツとも、軍服のような制服ともまるで違う。
月の光を反射して淡く発光するような白い、丈の長いお洋服。
その気高く、凛とした佇まいは、小説の挿絵に描かれていた異国の王子様そのものだった。
——こんな方が、私の夫だなんて。
言葉にした途端、現実が溶けてしまいそうで、胸が熱くなる。
階段を最後の一段まで降りる。
信子さんの介添えの手が離れた。
代わりに、温かく大きな暁臣様の手が、迷うことなく私へ伸ばされる。
「すみれ」
「……はい……」
「今日は何度でも、すみれを美しいと思ってしまうな。何度褒めても、言葉が追いつかない」
蕩けるような甘い声で囁くと、暁臣様は上着のポケットから小さな箱を取り出した。
そして、私の震える左手を取り、その薬指へ静かに、祈るような仕草で光る円環を滑り込ませる。
黄金色に光る繊細な台座。
大粒の宝石が、きらきらと純粋な光を反射して、私の指先で誇らしげに輝いている。
重みは小さいのに、胸の奥がずしんとする。
「これは……指輪、ですか?」
「ああ。改めて、俺の妻になってくれたすみれへ。永遠の誓いの証だ」
「わ……っ、あ……」
おそるおそる立ち上がると、見慣れたはずの自分の部屋なのに、視界がいつもより数センチだけ高く、別世界のように感じられた。
床が遠い。身体がふらつく。
重心が定まらず、一歩を踏み出すことさえ躊躇われる。
信子さんにそっと手を引かれ、やっとのことで右足を踏み出しても、慣れない高さに膝ががくがくと震えてぐらついてしまう。
転べない。裾を汚せない。そう思うほど、余計に足が固まる。
ドレスの裾を汚さぬよう細心の注意を払いながら、一歩一歩、感触を確かめるようにして、暁臣様が待つホールへと向かった。
階段の踊り場を曲がった先。
階下で私を待っていた暁臣様の姿を目にした瞬間、再び呼吸を忘れてしまう。
いつも仕事で着ていらっしゃる落ち着いたスーツとも、軍服のような制服ともまるで違う。
月の光を反射して淡く発光するような白い、丈の長いお洋服。
その気高く、凛とした佇まいは、小説の挿絵に描かれていた異国の王子様そのものだった。
——こんな方が、私の夫だなんて。
言葉にした途端、現実が溶けてしまいそうで、胸が熱くなる。
階段を最後の一段まで降りる。
信子さんの介添えの手が離れた。
代わりに、温かく大きな暁臣様の手が、迷うことなく私へ伸ばされる。
「すみれ」
「……はい……」
「今日は何度でも、すみれを美しいと思ってしまうな。何度褒めても、言葉が追いつかない」
蕩けるような甘い声で囁くと、暁臣様は上着のポケットから小さな箱を取り出した。
そして、私の震える左手を取り、その薬指へ静かに、祈るような仕草で光る円環を滑り込ませる。
黄金色に光る繊細な台座。
大粒の宝石が、きらきらと純粋な光を反射して、私の指先で誇らしげに輝いている。
重みは小さいのに、胸の奥がずしんとする。
「これは……指輪、ですか?」
「ああ。改めて、俺の妻になってくれたすみれへ。永遠の誓いの証だ」



